第851回 「セラピストの共感能力」

5月19日

ごくたまに、講師をしていて本当に良かった!と感じ入る瞬間が訪れます。まるで神様からご褒美を頂けた気分になり、心が大きく動く瞬間です。先日も、そういうことがありました。

ある医療系専門学校の講師として16年間関わらせて頂いているのですが、感性が豊かな時期の学生の皆さんと継続して関われるありがたいお仕事です。その中で数々のドラマがありました。

中村と私が障害体験や障害育児体験を語る授業があります。これから医療現場に出て行く学生の皆さんに、障害の実情を知り患者さんへの理解や共感力を高めてもらうため、私たちが最も力を入れているものです。ありがたいことに毎年レポートで大きな反響を頂くのですが、ベストの環境を作るため、寝る人には退室勧告をすることがあります。

昨年のAくんもそうでした。寝ているように見え注意したら20分ほど中座して、最後にはまた帰ってきました。レポートにも理由は書いていなかったのですが、後でB先生に自分の抱える問題としんどさを語ったそうです。非常にまれですが自分自身や生活環境にジレンマがある場合、私たちの語る体験談がそれと重なるのか、辛くなってしまう学生もいます。でもそれは豊かな感性、中でもセラピストになってから必須の共感能力の表れでもあると思います。

私と中村は事情がわかってから、彼のために何ができるか何度も話し合いました。もう授業は終わっていたので、機会を作らないと会えません。できれば直接話をしたかったのですが、彼自身がそれにプレッシャーを感じるのでは?と、やめました。手紙も同じです。結局、彼に役立ちそうな本だけを送ろう、と決めました。

アンパンマンの作者、やなせたかしさんの「明日をひらく言葉」という本は、やなせさんご自身の劣等感、逆境、それでも前を向くことの大切さが書かれています。「Aくんの明日をひらいてもらいたい」という願いを込めて送りました。

B先生を通じてそれを受け取った彼は驚き、私たちの思いを聞くと目に涙をため「僕どうしたらいいんでしょう?あんな態度を取ってしまったのに、こんなにしていただいて」と言ったそうです。B先生がメールに書いて下さった彼の言葉に、すべて報われた思いになりました。

1年がたち、新たな気持ちで学校に伺い、授業前に講師控え室でB先生と打ち合わせをしているとドアがノックされました。思いがけずAくんが、私と中村を訪ねて来てくれたのです。1年越しのお礼を言ってくれ、ニコニコと自然な笑顔の彼を見て、嬉しくて胸が一杯になりました。

繊細な感性は、医療の現場に出たときには患者さまに寄り添える優しさになります。あなただからできることがあるはず。頑張ってね、と握手してパワー注入!しました。

その後、移動で校舎内を歩いているとき、偶然彼を含む数名のグループと会いました。「こんにちは」とみんなが元気よく声かけしてくれる中、彼は90度近いんじゃないかと思われるほど、深々とおじぎをしてくれました。

Aくん、ありがとう。心に残る光景が、また一つ増えました。私の宝物です。

第850回 「素晴らしい方々とのご縁」

5月12日

時代が平成から令和に変わるとき、皆さんはどちらで何をしていらっしゃいましたか?
私は令和初日から6日間、東京でセミナー漬けでした。というのも、LABプロファイル(言葉と行動分析)の世界的権威で、敬愛するシェリー・ローズ・シャーベイ先生がトレーナー養成講座で来日なさり、そのセミナーにコーチとして参加させて頂いたのです。

私はシェリーの大ファンです。世界トップの講師なのに決して偉ぶらず、太陽のように温かく明るい笑顔でエネルギーを放ち、楽しいジョークでみんなを笑わせてくださる人間性を、深く尊敬しています。

子どものような好奇心で、「日本語の『ありがとうございます』と『ありがとうございました』の違いは何?」なんて質問をなさり、「そうか、終わったことは『ました』なのね」なんて日々学ばれていました。

シェリーはセミナー中にたくさんのジョークを言うんですが、残念ながら感覚の違いでウケないこともたびたびあり(笑)そういう時には(もうすんだ話ね)という意味で「~ました」と茶目っ気たっぷりにおっしゃって、笑いがあふれました。

小柄なシェリーの「高いディレクターズ・チェアに走って行って飛び乗る」パフォーマンスはDVDでみんな知っていて、再現するとやんやの喝采!人を楽しませるエンターテイメント力と高い講師力の両立には、いつも感銘を受けます。

シェリーの「声」になっていらっしゃるのは通訳の本山晶子(せいこ)先生。ご自身もLABプロファイルのトレーナーで、LABプロファイルのコンピューター版iWAM(アイワム)の日本での代表もなさっています。完璧な通訳が唯一あやふやになるのは、シェリーが晶子先生を褒めたとき。本当に人間としてチャーミングなお二方なんです。

今回の受講なさる皆さまは60名あまり。それを11名のコーチがサポートします。前回の私たちの時よりもずっとレベルが高く、昼休みもセミナーが終わった後も写真のように自主勉強会をなさっててビックリ。どれだけ意識が高いんでしょう!

かたや私は今回コーチが初めてということもあり、次第にやるべきことが増え頭がオーバーヒートし、4日目にはもう限界になっていました。落ち込む私にセミナー後のコーチ・ミーティングでシェリーが言ってくださった言葉。

「リラーックス!」
「今日、私がミスしたこと、いくつあった?」
すべったジョークがあったことを、笑いながらそう表現なさるんです。
「でも、ミスをしても、私は受講生から信頼を勝ち取れる。完璧でなくてもいいの。みんなもそうよ。どれだけ自分たちが影響力を与えられる存在だと思う?」

この言葉で、私は救われました。一つ壁を越えることができ、翌日も頑張れたのです。シェリーから「今日は少しリラックスしているように見えたわよ」とおっしゃって頂けたことが宝物です。

言葉の端々からわかるのですが、きっとシェリーご自身も人生で様々な厳しい壁を乗り越えてこられたのでしょう。だからこその強さと優しさを感じた時間でした。

そしてLABプロファイルトレーナーの同期にも、ずいぶん助けてもらいました。コーチ仲間は具体的な提案をくれ、懇親会で久々に会った同期からは「コーチのペルソナ(仮面)を被ったらいい」との助言。持つべきものは、敬愛できる師と素晴らしい仲間ですね。ありがとうございます。本当に、感謝しかありません。

LABプロファイルトレーナー養成講座は、後期が7月にあります。
少しでもお役に立てるように、また頑張らなくちゃ!

第841回 「現代の吟遊詩人、リピート山中さん」

3月10日

リピート山中さんを初めて知ったのは、つい先月のことでした。Face bookで報道に関して硬派の発言をなさっているのを拝見して「信念の方」だと感じ、やりとりさせて頂いて友達になりました。リピート山中さんはシンガーソングライターで「ヨーデル食べ放題」なんて楽しい歌は、私でも知っています。厳しくて楽しくて、限りなく優しい方でもあります。

たまたま3月初めに、高知県に一週間ほどいらっしゃるとのこと。あちこちでライブを開かれているのですが、残念ながら自分のスケジュールとなかなか合いませんでした。でもリピート山中さんという方をもっと知りたかったので、一般向けではなかったのですが、高知城東病院の認知症デイサービスでのライブに、病院にお願いしてお邪魔させて頂くことにしました。

何十分も前から、会場でお客さまを待つ姿。2~3人入ってこられたら、自然に「うさぎ追いしかの山~♪」と「ふるさと」が始まりました。正統派フォークシンガーを思わせる豊かな声量と声の美しさに、(失礼ですが)驚きました。

会場に多くの利用者さん、スタッフさんが三々五々と集まり、なごやかに進みます。
「リピート山中のリピートっていうのは、1回会った人とくり返し会いたいっていう意味なんですよ~」には、なるほど!と納得。(笑)

「母が88なので、皆さんと同じくらいの年代でしょうかね」と語りかけつつ、「おぼろ月夜」「ミカンの花咲く頃」などが続きます。歌詞を教えつつ歌われるのでみなさんも一緒に歌うことができましたし、言葉が明瞭なので、とても聞き取りやすく感じました。その後「リンゴの唄」「青い山脈」「ここに幸あり」など、認知症の高齢の皆さんも昔の歌を楽しんでいました。最後には踊り出す方まで。(笑)

リピート山中さんは、医師と往診コンサートにもいらっしゃるそうです。寝たきりの方の枕元まで歌を届けるとか。過疎の村で往診に行くドクターの応援歌、「往診ハラショウ」を歌ってくださいました。ハラショウというのは素晴らしい、の意味です。

♪往診ハラショウ!今日も行く 菜の花色の風の中・・・
♪診ましょ 診ましょ どんな病も たった一人の総合病院

私の夫もかつて、地域医療で過疎の村を回って往診していたのを思い出しました。

末期ガンのおじいさんがサブちゃん(北島三郎)の歌が好きで、枕元で「祭り」を歌ったら寝たまま手拍子で踊りだし、ご家族も喜んだとか。「おじいちゃん、また来ますから」と約束して医師に聞くと余命は半月。「嘘になってはいけない」と、神戸の自宅から山口まで後日行こうとしたらその日の朝、医師から「血圧が低下して意識がなくなった」と聞いたそうです。

普通なら、それで話は終わるでしょう。私だって行くのをやめると思います。
でも、リピート山中さんはそれでも行き、意識がないおじいさんの横で歌ったそうです。すると驚いたことに、おじいさんの目が開き、そして踊りだしたそうです。ご家族はどんなに嬉しかったことでしょうか。聴いていて、泣けました。
「歌には見えない力がある」。その通りだと思います。

沢山の高齢者の方にすべて握手なさり、最後のお一人まで見送られる姿に、本当に人を大切になさる方だなと思いました。

週末にはラ・ヴィータホールで、桂雀三郎とまんぷくブラザーズの一員として、安倍夜郎さんとトークショーやライブをなさり、それも見に行きました。

大阪の「やぐら」という深夜12時から営業する串カツ屋さんを歌った「やぐら行進曲」を作詞作曲し、これが四万十市出身の漫画家 安倍夜郎さんの「深夜食堂」のモデルになったそうなんです。「ヨーデル食べ放題」「やぐら行進曲」、“♪人生さまざますべて良し”のフレーズが心地良い「それぞれの味 札幌黒ラベルの歌」などで会場もノリノリ。アンコールの「江戸の人気者」も大受けでした。

会場でCDを2枚買ってきました。「家族のうた」と「いのちのうた」です。
特に「いのちのうた」はメディカルソング大全集、と銘打っていて

往診ハラショウ/ロコモかしこもサビないで(ロコモティブシンドローム予防体操解説写真付き)/頑張れ!スイゾウちゃん/脱!メタボリックロックンロール・・・

など、病院やリハビリの現場で披露されています。今回も高知大学医学部付属病院で音楽を用いた楽しい運動指導としてロコモ体操の運動指導をなさったそうです。これ、行きたかったなあ~。仕事で行けなかったけど。

この他、北アルプスの山々に登っての山小屋コンサートで、登山家「加藤文太郎の歌」を歌ったり、音曲漫才師としての顔もお持ちです。

さまざまなテーマで歌を作られ、唄うメッセンジャーとして全国を唄い歩かれているリピート山中さん。まさに、現代の吟遊詩人です。