第663回 「笑いと意識」

9月19日          (中村 覚)

先日、本屋さんで日本のお祭りについて書かれた「奇祭」という本を手にしました。題名の通り、日本全国で行われている祭りの中から一風変わったものをいくつか紹介しています。 その中に、“笑いのお祭り”というのがあり、 和歌山県のとある神社では顔を白く塗って頬に赤字で「笑」と書いた人物が、無理やり笑いを振りまきながら(何か笑える理由があるわけでもないのに) 地域の方や見物人を巻き込んで練り歩くそうです。

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著者はこの祭りの一連の流れを紹介した後、お祭りと笑いの関係性について語ります。そこで登場するのが天照大御神(あまてらすおおみかみ)の話。太陽神である天照大御神は天岩戸に隠れるのですが、外から八百万(やおよろず)の神々の笑い声がする! 「おかしい、外は真っ暗なはずなのに、何故 笑い声が?」と怪訝に思い、岩戸を開けて外を覗いてしまいます。結果、世界に再び光が戻ったという話ですが、このように“笑い”は神話の世界から重要視されていたというのです。

なるほど、今まで“笑い”というものをこういった角度で捉えたことがなかったので、その歴史の古さ(?)にガッテン。

そして笑いの効用へと話は続きます。笑うと気分が明るくなったり、リラックスしたり、体の免疫力がアップしたりなど、これを科学的に説明すれば笑うことで脳内にβ(ベータ)エンドルフィンが分泌されるので、幸福感が得られるのだそうです。

はて? βエンドルフィン? どこかで聞いたような気も・・・。ちょっと 調べました。このβエンドルフィンとは神経伝達物質のエンドルフィンの一つです。 鎮痛効果や気分の高揚、そして多幸感が得られることから脳内麻薬とも呼ばれているそうです。どうりで、笑えば楽しい気持ちになり どことなく充実した気持ちになるわけですね。

そして著者いわく、この笑う事で出ているβエンドルフィンは祈りの時にも出ているというのです。 つまり “笑い” も “祈り” も行き着く先は同じということ! 私はこのことに驚くと同時にとても納得しました。

祈りと言うと 日頃の生活からちょっと離れた感じもするので、私はこれを勝手にお参りと解釈しました。お参り となれば、神社、仏閣へのお参りや先祖のお墓参りを連想すると思います。 あのお参りをすませた後のさっぱり感や充実感は、βエンドルフィンのおかげだったのかと、長年の疑問(?)がフッ飛びました。

目を閉じて掌を合わせ 意識を集中すれば、体内で何かしらの変化がある、このことを昔の人は感覚的にわかっていたのでしょう、多分。それを今の時代、科学的に説明すればβエンドルフィン云々ということになるわけで・・・ でも 言ってしまえば、こんなのは感覚の後付けです。 そう考えると人間の感覚って、スゴイッ! 一人、一人、みんなが良いもの、持っているわけです。

ところで 皆さん 「マインドフルネス」 という言葉をご存知でしょうか。 日本で言うところの瞑想に近いものだそうですが、アメリカの研究者が座禅に注目し、集中力を高めたり ストレスを緩和させたりするためのスキルとして提案したものです。目をつむり座って自分の呼吸に意識を集中する。 結果として 雑念が去り、記憶力や免疫力が上がるということからストレス対処法として、医療、教育、ビジネスの現場で取り入れられているそうです。

人間の意識や感覚を科学的に説明できるようになったことで、(もちろん、全てではないと思いますが)自分自身の内なるものを大切にする時代に、もっともっとこの先 なっていくのではないでしょうか。それは良いことだと私は思います。