第801回 「再聴・西城秀樹」

5月26日

私たちの年代にとって『西城秀樹』は、学生時代の顔なじみの先輩のように身近な存在でした。63歳という思いがけない早さで駆け抜けた人生には、ファンではない私もただ驚きでショックでした。テレビで流れる、還暦の時の『野口五郎』とのハグ。本当に二度とないシーンとなってしまいましたね…。

(すみません。敬称をつけると別人のような距離感が出てしまうため、自分の思いで、何十年も呼び慣れている呼び方で あえて書かせて頂きます。)

3年前、「ちょんまげ天国」というCDを聞き、「子どもの頃、聞くとはなしに聞いていた時代劇のメロディーがこんなに懐かしいなんて!」と思わぬマイブームになりました。「こんな風に昔、聞くとはなしに聞いていた歌を今改めて聴くとどう感じるのか?」という興味で、私が中学から高校生の頃にテレビでよく流れていた「新御三家」郷ひろみ、西城秀樹、野口五郎が頭に浮かびました。

レコードをわざわざ買うほどではありませんでしたが、三人の中では郷ひろみが一番好きで聞いていました。そこであえて残りの二人、西城秀樹と野口五郎のベストアルバムを買い、数十年ぶりに聴いてみたのです。結果、ほぼすべての歌が「なつかしい!このメロディー、覚えてる!」と脳内の記憶を呼び覚ます、脳の活性化に役立ったのでした。

改めて聞いてみると、特に70年代のシングルのヒットソング集では西城秀樹と野口五郎の違いが面白いほど際立ちました。

西城秀樹:エネルギッシュな恋愛で、ストレートに「ついて来い!」と女子を引っ張っていくような歌詞。昭和の男を感じる。「君が死んだら俺も死ぬ!」(ジャガー)など歯の浮くようなセリフも堂々と言い放つドラマティックな情熱に、当時のファンはたまらなかったんでしょうねえ。

野口五郎:今聞いてみると「道ならぬ?女性との恋」で恋愛の苦悩を切々と歌い上げるパターンが多く、哀愁のある歌詞にあふれていた。デビューが演歌だったこともあり、三人の中では一番歌がうまいと言われていた。当時の繊細な五郎の苦悩の表情に、心を揺さぶられた女子が多かった。

当時の歌は最初の歌詞で曲名当てができるほど、意外にも脳内に刻み込まれていたんです。西城秀樹で言うと、70年代はヒット曲が目白押し。カラオケもない時代、激しい振り付けをまねして歌いましたっけ。(笑)

「やめろと言われても 今では遅すぎた」(激しい恋)
「君が望むなら 命をあげてもいい」(情熱の嵐)
「ローラ 君はなぜに ローラ 心を閉じて」(傷だらけのローラ)

「!」付きの歌唱。サビの盛り上がる歌詞も印象的でしたよ~。
「アアア… 一生一度なら ピエロも主役さ あなたの心を溶かしてみせる」(炎)
恋とは戦い。こんなにパワフルでストレートな愛のセリフ、もう聞かないですよねぇ。しかし「やめろと言われたら死んでも離さない。地の果てまでも行こう、君をこの手に抱くなら」って、今の時代ならストーカー扱いになるかも?

そしてヒット洋楽をカバーした、懐かしい80年代。「Y.M.C.A」はあまりにも有名ですが、「ナイト・ゲーム」「抱きしめてジルバ」など、実に良い選曲だったなあ。

野口五郎はそれに対して、印象的な歌詞はというと
「改札口で君のこと いつも待ったものでした」(私鉄沿線)
「あなたのかなしみは 雪でできている」(針葉樹)
「僕の泪を誘わないで 間違いが起こりそうさ」(君が美しすぎて)

「間違いが起こる」って表現自体が死語ですね。今では逆に新鮮だったりしますが、とにかく五郎は「耐える恋愛」のイメージでした。その際立つ違いが面白く、しばらく聞き比べていたものでした。

ともあれ、西城秀樹さん、本当にお疲れさまでした。
時代を彩ってくれて、本当にありがとうございました。