第804回「ここから、また やってみて」

6月15日              (中村 覚)

先日 押入れを片付けていると木箱が出てきて、その中に封筒の束がありました。未使用の状態だったので今も使えるのですが、もう使う時もそうないかなぁと思っていると束の間から一枚の写真が出てきました。

写っているのは祖母です。祖母が趣味のパズルをしている何気ない写真です。観光地や特別な日に、「ハイ、ポーズ」パシャリ! ではなく 自然な写真を撮りたいなと思い始めた頃のものです。

で、その何気ない写真を何年かたった後に、他愛のない昔話をするように「(この時を)、覚えている?」と相手に渡して、ちょっと喜んでもらえないかなと。なにもこれは相手が祖母に限ったことではなく、そういうことをしたい時期でした。

時間の経過による写真の効果を考えると1~2年では面白くなく、5~6年は寝かした方が良いはずです。そうなると私自身がその写真の存在を忘れているぐらいがちょうどです。いつも目に入る所に置いてあると、つい相手にすぐに渡してしまいたくなりますから。

それを考えると、今回の封筒の間にしまい込んでいたというのは、けっこう お利口さん。(笑)

写真の裏を見ると08年4月と書いてありますから、知らず知らずの間に10年ものの写真に仕上がっていました。10年ひと昔、熟成度もバッチリ。

ところがです、祖母は3年前に他界したので 実は渡しそびれたのです。写真をしまい込み過ぎ。寝かし過ぎ! あ~ぁらら…。

祖母はジグソーパズルを最初 100ピースから始めて、慣れてきた頃には1000ピースのものを3ヵ月に1つは完成させていたように思います。1000ピースともなると難易度も上がります。一面に広がるまっ白な白銀の世界、 雲一つない青空、こういった部分を組み上げるとなると、80歳を超えた祖母にはけっこう骨折りだったはずです。

ということもあり 2週間に一回ぐらい祖母の家に行き、パズルの途中経過を見ていました。パズルはちゃんと合っている場合、もちろんパチッと はまるのですが、間違っていても、少々力を入れれば はまります。(老眼の祖母には正解のように見えるわけです。)でもそうすると、そこから先、また力任せに次のピースをはめ込むことになり、やがては まったく はまらなくなります。

最初の頃は、まだ慣れないこともあり かなり間違って組み合わせていたので、私がパッ、パッ、パッと無造作に10ピースぐらい外したことがあったのですが…。

これがいけませんでした。

祖母からすれば、何時間もかけて作ったのに、こんなにも間違っているの? そんな気持ちが強かったと思います。 ぼそりと言いました。「もう ようせん(できない)。」

これ以来、間違って組み合わせた部分がたくさんあっても、外すのは3ピースぐらいにとどめて、あとは祖母に気付かれないように正しく組み直すようにしました。

「ここから、また やってみて。」

楽しくパズルをやっている人のやる気を削いで、どーすんの?
今ならわかります。若かったなぁ…。
そんな思い出の写真です。