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|WEEKLY “N”|T医師のひとりごとすずかの気ままにDO!
 

第423回●2011年1月23日(日)

「子宮摘出オペ B 病院の都合と患者の都合」

 退院の日時については、事前に特に説明もなかったのですが、私は
「主人が仕事が終わってから来るので、夜になると思います」とスタッフにお話ししていました。それに対して特に何も言われなかったので、すっかりそのつもりでした。

 退院予定日の前日の午後、初めての看護師さんが「明日退院ですね」と確認に来られ、改めて「夜に退院します」と話しました。

 すると「明日入院する患者さんがいるので、午後からこの部屋を使いたいんです。お昼に出ていただけませんか」と言われました。「では、どこか別の部屋をお願いします」と話すと「わかりました」となりました。

 雲行きが怪しくなったのは、その後です。さきほどの看護師さんが再び来られ、
「部屋を探したんですが、今、どこも満室なんですよ。ご主人はお昼に迎えに来られませんか?」
「仕事がありますから、夜しか迎えに来られないんですけど…」
「だけどお昼に部屋を出てもらわないと、次の方の入院も手術もキャンセルになりますので」
そんな病院側の都合を前日に言われても、という気になりました。

「じゃあ、もっと早くそう言って欲しかったです。それなら明日の仕事の予定も変更できましたけど
退院前日の午後に言われても、仕事の予定は変えられないですし」
「お昼に退院になることは入院案内にも書いてありますけど」

そう言われても、入院案内は20枚以上の書類と一緒に渡され、しかも冊子だったので全部は読めていませんでした。
「でも入院案内の説明の時にも、そんなことは言ってもらえませんでした。
そういうことなら、 本来は事前に説明すべきじゃないでしょうか?」

でもまあ、そんなことを言っててもらちがあきません。 気を取り直し、聞きました。
「じゃあ、 どうしたらいいんですか?どこか退院まで、待てる場所はありませんか?」
「部屋がないので、1階のラウンジ(待合)しかありませんけど」

迷いのない言葉に、私は自分の耳を疑いました。

「…じゃあ、お昼から夜まで6時間以上もラウンジで待つんですか?」
術後の身ですよ?ウイルスをもらって風邪をひくのは確実でしょう。
病院の都合を優先させるにしても、そんな対応はないでしょうと思いました。

「ご主人にもう一度連絡を取って、お昼に迎えに来られないか聞いてみてください」
「それは無理です、仕事がありますし」
「でも一応、聞いてみてください」
そう言い切って、看護師さんは出て行きました。 迎えに来てもらえないのに、部屋は出なきゃいけない。普通の患者さまならここまで言われたら明日の昼、「仕方ない」と無理をして、一人で荷物を運んでタクシーで帰られるのでしょう。

 看護師さんが退室した後 途方に暮れていると、お見舞いに来て黙って聞いていた中村が
「筒井さん、今夜、ご家族がいらっしゃるんでしょう?その時に退院するわけにはいかないんですか?」と言うではありませんか。目からウロコ、救いの手を差し伸べられたように感じました。「そうだ!今夜、退院しよう!」。もう内診も終わり、退院を待つだけなのですから。

 病院は明日の午前に私が退院して、午後別の人が入院すれば、効率の良い医療収入が得られるのです。確かに、大変良い治療をして頂いたことには感謝していますが、大荷物を抱え、風邪をひくリスクを冒してまで半日も待合で待つなんて、真っ平ごめんです。

 その後「4人部屋が空いたので、明日の昼前に移ってもらえますが」と言いに来た看護師さんに「それも大変なので、今日退院したいです。できますか?」と告げると「じゃあ先生に聞いてみます」となり、無事先生からもOKが出ました。夫にも連絡して「急だけど、今夜退院することになった」と言うと、「じゃあ医療費の支払いは振り込みにしてもらったら」とアドバイスしてくれました。

 こうして急転直下、私は予定よりも1日早く退院することになったのです。きれいで気持ちの良い個室、日頃の丁寧な対応は患者としての尊厳を感じられ、精神的にまったく落ち込まずにすんだことは感謝でした。
 
  ちなみに入院費は個室料(6万6千円)を含めて、15万5千円ほどでした。12年前の腹腔鏡の手術時の医療費が1週間で11万円(個室料を含まず)でしたから、支払額としては助かりました。


 でも今回の問題には、考えさせられました。今までも、病院側の都合と患者の都合が食い違うことはあったはずです。他の看護師さんに聞くと、「もちろん、夜など色々な時間に皆さん、退院されますよ」とのことでした。

 つまりこれは看護師さん個人の対応ではなく、病院のマネジメントの問題でしょう。事前にわざわざ入院説明の部署で「説明を聞きました」と証明書にサインまでさせるのですから、退院時間が重要であれば その時きちんと説明するべきでしょう。それなら、こういうことは起きずにすんだのではないでしょうか。要望として、そう看護師さんにも伝えました。

 

 日頃の接遇が良くても、今回のように何らかの食い違いがあった時こそ、そこの組織の本質が見えます。患者さまは黙ってそれを判断なさっています。

 医療サービスの原則に「患者さまの立場で考え、行動する」ということがあります。
それが現場においてきちんと行われることが大事で、しかし難しいことです。

 もちろん、病院と患者さまの都合をなかなかうまくすり合わせできないこともあるでしょう。でもそういうときこそ、患者さまの立場に立ち、思いに耳を傾け、気持ちにどれだけ添えるかのプロセスが重要なのです。患者さまのニーズが満たされなくても、「あなたがここまでやってくれたんだから、もういいですよ」という気持ちの区切りがつけられるように。

 オペから2週間経ちました。一か月も湯船に浸かれないのは寒い時期には厳しいですが、お陰さまでほとんど痛みもありません。研修現場復帰も近々できそうですし、今後は体調の波に翻弄されずにすむのが何よりです。
 健康にして頂き、事例提供も頂けて、本当に良い経験でした。お世話になった皆さま、お見舞いのお花やメールをくださった皆さま、お読みくださった皆さま、本当にありがとうございました。

 

 

 
 
 
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