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第539回●2013年4月20日(土)

祖母の思惑」 

 

(中村 覚) 
 4月も半ばを過ぎ、花見の時期もとっくに終わりましたが、3月末のことです。「もう散っているかもしれないけれど」と言いながら、祖母を連れて花見に行くことにしました。祖母は2年程前から足腰が弱くなったため、一人暮らしを終えて 今は施設でお世話になっています。新しい住居は街から離れた閑静な場所にあります。しかし住み慣れた自宅を離れての暮らしですので 「花見なんかも良いんじゃないかなぁ〜」 という母の提案でした。
 私と母と伯母、3人で祖母を迎えに行きました。(祖母からすれば娘2人と孫1人) 迎えに行く手前に先方に連絡を入れていたので、到着したらすぐにスタッフの方が、祖母の車椅子を押して駐車場に出てきてくれました。祖母と会うのは約一ヶ月ぶりです。

 「久しぶりやねぇ」の会話もそこそこに、早速、車椅子から助手席に移ってもらいます。スタッフの方の力を借りながら 時間をかけて、自分で「よっこいしょ」と乗ってくれるので助かります。私の車に乗るのは(多分)半年ぶり、シートベルトを締めて準備OK。

 「おばあちゃん、前に花見に行こう、言うちょったろ? 今から行くで」 「そうやったかね? もう忘れちゅうで」 と笑っています。私も92歳の祖母が、だいぶ前の話を覚えているとは本気で思ってません。 「そぅかえ(笑)。」

 ずいぶん前から祖母は耳が聞こえにくいので、こちらからしゃべる時は、ちょっと声を大きくして滑舌も良くし、耳元で話すようにしています。出発する前にちょっと確認。「この今の体勢(椅子の角度)で大丈夫?」 「はい」。 「ドライブ中に、もし腰とか痛くなったら言うてね」  「はい」。 「気分が悪くなったら早い目に言うてよ」  「はい」。 ん? 普段になくえらく丁寧に答えてくれます、 「はい」 なんて返事 まぁ他人行儀な。久しぶりの車に緊張(?)でもしているのかなと・・・。まっ いっか、桜の木 目指して出発です。

 なんじゃかんじゃと話をしながら車を走らせていると、祖母は運転している私の顔をふと見て 「あらっ 覚かえ?」とちょっと驚いたんです。こっちはもっと驚きました。私を一体、誰だと思っていたのか・・・ まっ いっか。

 ところで、今回の目的は花見です。国道沿いに植わっている桜の木 数本は、ありがたいことにまだ散っていませんでした。見応え十分。祖母にわりと近くで桜を見せてあげることができたので、嬉しいやらホッとするやら、とにかく良かったです。ところが、桜の木を何本見ても祖母は たいして喜びません。 なんで?
 あまりに反応が薄いので、母が 「桜はどうで?」 と聞いたところ 「桜は毎日 部屋から見えゆうも(見えているから)」。 と言うのです。これには私も母も伯母もビックリ。さらに詳しく聞くと 「大きな桜の木が、部屋の窓から見えるので、もう桜は見飽きている。」 これが祖母の言い分でした。 一同、ガビーン。

 実は私もあまりの反応のなさに「心 ここに在らず?」と思っていたのですが、桜に対する祖母の言い分を聞き納得しました。本人の中でしっかり筋が通っているわけです。これを考えると、先ほど運転している私の顔を見て「あらっ 覚かえ?」と驚いたことも理解できます。

 本人なりの言い分は多分こうです。       
車に乗って、どこかに出掛けるという行為はデイサービスのつもりだったのでしょう。助手席に乗り込む際は、その行為に集中しているので、いちいち運転手のことなど気にしていません。そして座席にしっかり腰を下ろせば、シートベルトを付けて真っすぐ前を向いたままの状態です。運転手は視界に入ってきません。出発前に運転手から2,3質問を受けますが、耳が聞こえにくいということもあり、安易に返事をして話を流します。まさか運転手が孫とは思っていませんので、「はい」 という 丁寧な返事をします。しばらく車に乗っているうちに、車内の雰囲気にも慣れてきて、ふっと横を見ると 孫が運転をしていた。それを見て 「あらっ 覚かえ?」  私なりの想像ですが、これで話はつながります。

 92歳という年齢的なことによる諸事情、色々あります。でも、こちらがその都度 祖母の気持ちを確認することで、もっと自然にやり取りができることもあるなぁと思いました。

 そもそも、今回の花見、これも一方的にこちらが決めたことでした。良かれと思ってやったものの・・・。
ん〜、でも言ってしまえば、気遣いとおせっかいは紙一重な部分も有るので、 身内やき許して。

 

 
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