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ウィークリーN

第142回2005年7月30日(土)

 「心の花束」


 昨日、行きつけのスーパーでなじみの店員さんが辞めるという話を聞き、ショックだった。
  もてなしの心=ホスピタリティのお手本のような方だっただけに、残念でならなかったのだが…。

 Mさんというその方は、50歳前くらいだろうか、いつレジに行っても本当に自然な笑顔でニコニコと迎えてくださり、温かな言葉をかけてくださる。 なんということはない言葉だが、こちらへの気遣いが常に感じられ、非常に気持ちがよい。
「お仕事のお帰りですか?大変ですね」「お荷物はこちらへ持っていきますね」「先日、ニュースでお見かけしましたよ」など毎回、バツグンの気働きとテキパキした仕事ができる方だ。同じ並ぶのならと、Mさんを探してレジの列に並ぶことも多かった。

 涼歌と一緒にレジを通ると、必ず彼女に声をかけてくださる。「どうもありがとうございます」「また来てね!」笑顔で、車いすの彼女に合わせて少し腰をかがめて。これは、なかなか出逢える応対ではないというのは、車いすと買い物に出ればすぐわかる。涼歌はレジの方に「ありがとう」と言うことが多いが、声が小さいので気がつかれなくて無視される格好になることも実に多い。 または彼女が言った「ありがとう」なのに、私に「ありがとうございました」と、返す方もまだまだいらっしゃる。

 しかしMさんは必ずMさんの方から、ニコニコと「どうもありがとうございました」と涼歌に声をかけ、いつも最高の応対をしてくれていた。他の店員さんはごく普通の応対のため、残念ながら社員教育ではなく、Mさんご自身の資質によるものだろう。お陰でここでは、いつも気持ち良く買い物ができていた。

 昨日、いつものようにスーパーの買い物を終え、出ようとするとMさんと会った。わざわざ探して来てくださったらしい。「実は私、都合で今日でこちらを辞めることになりました。いつもお見かけしていたので、最後にごあいさつをしておきたくて…。」Mさんは、潤んだ目でそうおっしゃった。突然のことに、非常にショックを受けた。

 実は今月は、最愛のアーティスト、先生、長女の学校の後輩…と大切な人たちを3人も空へ見送った、悲しい月だった。その上Mさんの笑顔が見られなくなるというのが、予想外に喪失感が深く、自分でも驚いてしまった。
  たかが買い物、されど買い物。毎日のように出会う店員さんだが、いつも心を込めた笑顔でホッとさせてくれる人は案外いそうでいないものだ。

 店を出て、花屋さんに向かった。どうしても顧客の1人として、Mさんの最後の仕事のはなむけに「お疲れさま」と、ささやかにお礼を言いたかったのだ。私はピンクの花を抱え、スーパーに戻った。

 Mさんはいつものように、レジで仕事をしていた。花が見えないように隠して列に並び、順番が来た。幸い、後ろにもお客さまはいない。Mさんに「ご卒業、おめでとうございます。」と花を渡すと、Mさんは驚いて「そんなつもりでは…」と恐縮なさっていた。「もちろん、わかってます。でも、こうしなくてはいられなかったんです。今まで本当にありがとうございました。Mさんの笑顔で、ずいぶん元気づけられました」と答えた。

 実は私は先天的に気がつく方ではない。だからこそ働く職場は違っても、スーパーのレジという舞台で最高の仕事ができるMさんを、ずっと尊敬していたのだと、その時気付いた。「こちらこそ、本当にありがとうございました。」Mさんはいつもの柔らかな笑顔。舞台の上では、女優は自分の涙を見せないものだ。それに引き替え私は、情けなくも涙ぐんでいた。Mさんの笑顔は心の花束となって、こんなにも私に安心感を与えてくれていたのか…。

  Mさん、本当に大事なことを教えてくださって、ありがとうございました。あなたを見習って、少しでもホスピタリティの本質に近づけるように、私も頑張ります!

 

 
 
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