第891回 「暦は巡りて」

2月22日

昨年末、母が掃除の折に古いアルバムを処分したいと言い、1冊もらってきました。もう70年以上前の写真もあり、両親や亡くなった祖父母が驚くほど若いのに感慨深いものがありました。

その中で、ふと目にとまった一枚。父と幼い私です。

3歳くらいでしょうか。叔母の結婚式の日、退屈した私を若い頃の父が優しく相手しています。もう20年以上前に亡くなった父を懐かしく思い出すと共に、この幼児がもう還暦を迎えたのですから、時の流れは早いものです。

今でこそ還暦、60歳はまだ若い(2018年の平均寿命は女性が87歳、男性が81歳)ですが、日本人の平均寿命は明治・大正時代でも40歳台前半。50歳を超えたのが戦後の昭和22年(1947年)ですから、昭和の時代は還暦で長寿を祝う意味が大いにあったのです。

そもそも還暦祝いとは「暦が一巡するまで長生きした」ことを喜ぶ、人生の区切りです。暦に使われている干支は、別名を十干十二支(じっかんじゅうにし)といい、現代も使われている十二支は、12種類の「支」のこと。
「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」で12年に一回巡って来ます。

それに十干という「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」10種類の「干」があり、先ほどの十二支と組み合わせ毎年変わっていくのです。
最初は甲子(きのえね)、次の年は乙丑(きのとうし)…となり60年経つと、また甲子(きのえね)に戻ります。野球の甲子園球場は、この甲子の年・大正13年に完成したことによる命名です。

人が生まれてから60年経つと、この60種類の干支が一巡します。そのため「生まれたときと同じ暦に還る(赤ちゃんに還る)」=「還暦」なのだそうです。

ある意味 生まれ変わると考えられますが、赤ちゃんの頃の自分に戻れるでしょうか?
もちろん、肉体的には無理ですが、心はどうなのでしょう?
残念ながら、60年生きて来た心の垢が檻のようにたまっているように思いました。

そういえば最近、ある方から薦められたチャレンジを「けど、でも」で言い訳をしている自分に気付いたことがありました。これではいけない!

高校生の頃、アメリカからの交換留学生をホームステイさせていたお宅にお邪魔して、その家の小学生とみんなでトランプをしたことがあります。
七並べのルールを説明するのに「並べる、の英単語は何だろう?」と悩む私たち高校生。
かたや隣で小学生の女の子は留学生にカードを指さして「7,8,9、10」と置く場所を示し、「OK!」。それで通じたのには、目からウロコが落ちた気分でした。

日常では 時間をかけて文法的にきちんと説明するより、大雑把でいい。その場で伝わることが大事。無邪気な小学生にそう教えてもらったことを思い出しました。
あれも心をシンプルに戻す、ということかもしれません。

いらないものをできるだけ脱ぎ捨てて、心を軽くしてみよう。
ポジティブなことは「でも~」ではなく、できるだけYESと言えるよう心がけてみよう。子どものような純粋な好奇心を大切にしてみよう。
なんだかそう考えると、もう心が軽くなった気がしています。