第1056回 「松葉杖のゴム3話」

5月20日          中村 覚

友人と買い物に行った時のことです。横を歩きながら私に聞いてきます。
「これ、おNEWやけど、わかる?」そう言われたので改めて友人を見ると
見慣れない上着が目につきます。 「上着かえ?」 「そう。」

なるほど、これは負けてはいられません。「実は俺も おNEWやけど、わかる?」
今度は友人が私のつま先から首辺りまでをまじまじと見ます。
「ズボンか?」「違う。」「靴?」「違う。」
「松葉杖の先のゴムよ。」
「わかるかぁっ!」(笑)

これ、松葉杖に関する 数少ない まぁまぁ笑える話かと自分で思っています。

ところで、先日医療従事者を目指す学生たちの授業で、松葉杖を使う生活においてどんな時に不便さを感じるのか、といったことを導入部分として話しました。

こういう話は生活感があってこそですから、杖の先からゴムを取り外して全体によく見えるようにして「皆さん このゴム1個、いくらぐらいだと思いますか?」と聞いてみました。(今時、調べればすぐわかることですが) こういう話もいいかなぁと。

まず大まかなに「1000円ぐらいはするんじゃないか。とお考えの方は?」 そうすると全体の半分ぐらいが手を挙げてくれました。更に進めて「いやいや、2000円以上はするんじゃないかと思う方?」 するとまた半数ぐらいが挙手してくれました。

松葉杖に欠かせないこのゴム、必要性や安全面から考えてもしっかりした
物でなければならない。 つまり金額もそこそこ張るんじゃないかと!
だいたい皆さんがそんなふうにお考えなのが、初めてわかりました。

でも実は 1個 500円ですけど…。すでにこの値段を言いにくい雰囲気でしたが、正直にそう言うと、拍子抜けしたような笑い声も漏れてきました。(笑)

私にしてみれば、あまりに日常的な物 過ぎるので安いに越したことはない。
しかも摩耗すれば買い替えなければなりません。新品に取り替えたところでゴムの弾力性は上りますが、心は弾みません。

今回のように、ゴムの値段をきっかけに話をすることは、全体的により集中してもらえるとわかり、新しい気付きでした。

ところでこのゴムですが、新品でもある程度 摩耗していても、どちらでも雨の日は滑ります。地面がアスファルトだと大丈夫ですが、スーパーなど天井の照明が反射してテカテカと光っているキレイな床は気が抜けません。 経験上、スーパーの床よりもコンビニエンスストアの床がより滑りやすいかなぁと。

ところがつい最近、雨の日でもほぼ滑らないコンビニエンスストアの床をたまたま見つけました。ある雨の日のこと。「気を抜いたらまた滑るぞ」と心配しながらオープンしたばかりの店に入りました。すると「あれ?」床の感触が違うのです。雨の日なのに滑りそうな気配がありません。床に目をやるとテカテカ光っているあの床ではなく、色合いを押さえた一見、大理石?と思えるようなシックな感じの床なのです。

何歩か歩くうちに、「これは本当に滑りにくい!」とわかり、こんな床ができているのかと嬉しくなり、会計の時に「いや、実はお店の床は雨の日は よく滑るのですが、ここの床は滑らないですね」と。自分がしゃべっている内容がそれほど一般的ではないとわかっていたのですが、とにかく聞いてもらいたかったのです。

するとスタッフの方(多分、オーナーさん)が、「実はそういうコンセプトで当店はこの床を採用しました」と。床の材質の選択肢として新たにこういった物が出始めているようなのです。「当店を含めて、現在 高知県では4店舗がこういった床にしています」とのことでした。

ぜひこういった場で見てもらいたいと思い、床の写真撮影の許可をお願いしたところ、快くオッケーしてくださったのですが、「それをネット等にあげるのはちょっと~」と言われまして。
今後もまた行きたいお店なので、ニコニコ笑顔で退散してきました。(笑)

第1051回 「それ以上の価値を見出す」

4月15日          中村 覚

去年、マジック、手品を見に行きました。テレビでは何度も見たことはありましたが、直に見るのは初めてです。こじんまりとした空間で、お客さんは20人ぐらいだったと思います。至近距離でのショーはどれも新鮮で「おぉぉっ!」と1つの仕掛けが終わる度に、みんなが拍手を惜しみません。

以前、聞いたことがあります。手品を見て「一体、これはどんな仕掛けなのか?」などと考えるのは日本人ぐらいだと。諸外国の方はもっと純粋にショーを楽しむとのことでした。(笑)

私は考えてもわからないので「どんなタネが?」とは思いません。ただ手品を見たら「人生、こうありたいなぁ」と思うのです。手品にはタネ・仕掛けがあるわけですから、あえて数値で言うなら「1」だと思うのです。その「1」をマジシャンが卓越した腕で「3」や「5」、それ以上に魅せる! お客さんもそれに称賛を送る。「1」とわかっているのに。 これ、ものを楽しむ基本姿勢かと。(笑)

ところで、こういったものを楽しむのとは別な角度で、「1」から それ以上の価値を見出す、そんな光景を見ました。

スーパーでのことです。ワゴンセールの中に1個、400円はする子供向けの小さなミニプラモデルが、100円で売られていました。この商品は全7種類。1箱に1体のロボットが入っているのですが、7種類集めると、それぞれを組み合わせてより大きなロボットが完成します。これを小学1年生かそこらの男の子が、目を輝かせながら「絶対に欲しい!」とお父さんにねだっていました。

男の子はお金のことはまだよくわからないようでしたが、7種類買うと大きなロボットが出来上がるのは分かっているらしく、ズラッと目の前に7個並べてお父さんにせがんでいる最中。

普通に買えば400円×7個=2800円。でもワゴンセールのため、全部買っても700円。買い与える側からすると、これはお買い得。しかし、そのお父さんは子供に「今日、これを全部買うなら、今度欲しいと言っていた、〇〇のおもちゃは買えなくなるよ」と膝をついて子供と同じ目線になり「よく考えてね」とゆったりと子供に言い聞かせています。

子供はおもちゃを目の前に、考えに考え、悩みどころです。10分ほど悩んでいました。いやもっと悩んでいたかもしれません。と言うのも私はトイレに行ってまた戻ってきたのですが、まだそのお父さんは気長く待っていましたから。しかし、最後は根負け。これ以上は待てません!私が帰る時間です。(笑)

結局、この親子がどうしたのかは、わかりません。でもこのお父さんが、素晴らしいと思いました。欲しい物を1度に7個も買おうとしている特別感、その重みをワゴンセールの商品をきっかけに子供に考えさせているわけですから。

私だったら、ついつい大人の料簡を当てはめて、全部買っても700円!OK!と安直な結果になっていたかもしれません。1つの出来事から深く物事を考えさせる、これこそ「1」のものを「2」にも「3」にもできるマジックなのかもしれません。

第1050回 「ハードなことの乗り越え方」

4月8日

今週は本当に大変な週でした。先週末から長女の喘息が悪化する一方でデイサービスにも行けなくなり、毎晩5回ほど起きては吸入し呼吸が楽になるよう介護することを3晩ほど続けると、睡眠不足でフラフラに。

折しも新入社員研修も始まり、多忙な時期です。開始時間を誤認する失敗をしてしまい、相当落ち込みました。東日本大震災時、長女がストレスで精神障害を発症し、「食べない、寝ない」状態に付き添っていたときには数ヶ月、ろくに寝なくてもなんとかなったのに。でも気がつけばそれから12年もたっていて加齢しているわけですよね。体調が悪いと思わぬトラブルになることを痛感しました。

「これからどうしたら同様の失敗を防げるか?」と考え、「当日、内容の予習をする最初に、まず時間確認から入るルーティン」を新たに決めました。すると気持ちも前向きになり、次の研修の日も前夜眠れませんでしたが、お陰さまで良い結果につながりました。

私はしんどいとき、アメリカの医療や法廷もののドラマを見て「こんなに大変なことに立ち向かっている人がいる」ことに大きな力をもらうのです。「私の悩みなんて、実にちっぽけだ」と感じると、また元気に立ち上がろう!と思えます。「ドラマは作り物」といわれても、ドラマに限りなく近い現実はあるわけですから、同じですよね。

先日あるテレビ番組で脳科学と金銭感覚について取り上げていたのですが、「他人の損で金銭感覚がバグる」んだとか。「自分がギャンブルで5千円損すると悲しいが、隣の友人が1万円損したのを見るとホッとする」って(笑)おいおい二人で足引っ張り合ってどうすんの、って感じですけどね。本当は損に向き合うべきなんだけど、心の痛みを回避したい前頭葉が 辛さを和らげる働きをするということでした。

なるほど~。自分が大変なとき、もっと大変な現場を見て、「自分はこの程度で悩んでる場合じゃない!」と思うのも、この働きなのかなと思い、納得したことでした。

春の嵐のような悪天候が過ぎ、お陰さまで長女の体調も回復しつつあります。年を重ねるとトラブルも起こりやすくなりますが、乗り越えるための智恵もまた重ねられるので、それも悪くないかと感じている私です。