第1044回 「沈黙の役割」

2月18日

もう20年以上、香川県善通寺市にある看護学校で看護学生の皆さんとのご縁を頂いています。今年度は新設された1年生の教科「人間とコミュニケーション」で、学生の皆さんと一緒に、医療現場のコミュニケーション課題について考えてきました。

患者さんとのコミュニケーションにおいて重要なマナー、話し方、傾聴などを一通り学び、その後初めての現場実習を経て、ふり返りをしてまとめました。

初めての病院実習後に、患者さんとのコミュニケーションでうまくいったことと課題と感じたことについて、レポートを出してもらいました。私も看護の実習について具体的なことを聞けて、勉強になりました。レポートの中に

・「私は患者さんのことを知りたいので、お話しさせてください」と伝えると、うなずきで答えてくださる回数も増え、言葉でお話をしてくださるようになった。

というものがありました。気持ちを伝えることが大切な好事例ですよね。言われてみたらそうなんですが、なかなかそこに気づくのは難しいと思います。

続いて、課題を感じたコミュニケーション。やはり、マスクやフェイスシールドがあって、伝えにくいことには苦労したようです。

また、多くの学生さんが「沈黙」についての課題を書いていました。

・患者さんとの会話がうまく続かない
・沈黙が続いてしまう

といったものです。「質問が浮かばずに、沈黙してしまった」と、沈黙してはいけないように捉えている人が多いように感じました。医療職として、主体的にコミュニケーションを取らねばと強く感じているのかもしれません。

でも、沈黙は 恐れなくても構いません。
実は沈黙には、多様な意味があり、主な役割としては

①言語活動の手段
②相手に話をさせる目的(傾聴)
③相手の発言を止める目的
④発言内容を整理する
⑤拒否・拒絶

などがあります。傾聴や内容整理など、沈黙をポジティブに活用すれば 患者さんとの結びつきを強め、関係性を築ける 重要なコミュニケーション手段となります。だから沈黙は、必要なことであり、大切なことでもあるんですね。

こう話すとみんな一様にホッとするようで、表情が明るくなります。
「沈黙の時の皆さんの表情が大事です。ゆったりとした笑顔で、相手を見つめて下さい。言葉はなくても【受容されている】と、患者さんが感じられることが大切です。」

最後の授業でこう話した後、ある学生さんが書いてくれました。

・実習に行き、実践の場でこれほど実用的な授業は他にないと思った。

嬉しい一言が、心にぽっと灯りをともしてくれました。
コロナ禍でも、心の結びつきは失いたくないものですね。

第1015回 「心豊かな夏の土佐清水にて」

7月24日

今年の夏、楽しみにしていた仕事がありました。初めて土佐清水市で、清水高校の就職講座をご依頼いただいたのです。先生から「清水は遠いし十分な費用もないのですが、講座をやって頂けないでしょうか?」というご依頼を頂いたのが、5月の初めでした。

確かに、高知市から土佐清水市までは車で3時間ほどかかります。
でも以前もコラムで書いた通り、足摺は私にとって子供の頃からの心の故郷。夏の土佐清水と聞くだけで心躍り、喜んでお受けしました。

初めての清水高校。市街地からは車で5分、すぐ横に小さな山と川があり、自然豊かな環境です。全校生徒が百人ちょっとの学校のようで、今回の受講生は全部で8人。少人数だけにのびのびとした生徒たちがとても印象的でした。私は高校生の就職講座を20年以上やっており、東は室戸高校から西は宿毛高校まで伺ったことがありますが、今回「こんなの初めて」と感じることがいくつかありました。

講座の内容は 学校と社会の意識の違い、会社研究、自己分析、言葉遣い、立ち居振る舞い、そして自己PR実践。決して面白い内容ではないのですが、男子は休憩時間に資料を読んで、友達同士で敬語の言い換えなどをワイワイと予習していました。
「すみません、の言い換えってどう言う?」
「お父さん、お母さんは?」{父上、母上!」
いや、違います。(笑)

また午後の休み時間には男子3人が 面接時の椅子への座り方の資料を読んで、
「まず左足から…、ん?」「わからん」
とかやってるので、「こうするのよ」と思わず教えると
「あー、そうか!」とみんなでそろって
「左、右、左」とまるでダンスステップを踏むように練習。
それが見事にシンクロしてるのに、思わず笑ってしまいました。

そこへ女子も加わって「はい、そこを右!」とわざと違うことを言って
シンクロしてた3人がぶつかって、見ていた女子は大笑い。
私も笑ったのですが、そのときの気分は講師というよりも仲間の一人になったようで、楽しくて不思議な一体感がありました。

のびのびとみんなで楽しみながら、新しい学びにチャレンジする。その姿勢が、本当に素敵だなあと心に響きました。だって楽しみながら学ぶのが、一番伸びしろが大きいですから。

講座が終わった後先生が、「みんな、とても素直なんです。でもちょっとふざけている生徒も何人かいて、失礼がなかったでしょうか」と心配なさっていました。
「とんでもない!今の時代、心が不安定になることが多い中、こんなに心を健康に保てているというのは素晴らしいことです。物事を生き生きと楽しむのが自己肯定感のベースになり、生きる力につながりますから」と答えました。先生は嬉しそうに「そんなに褒めて頂くのは初めてです」と笑顔でした。

最後のレポートをにも、生徒たちの素直さが表れていました。
・自分で気づいていない部分をチェックシートで確認できたのがとても良かった。
・今後の人生において大切だと思うので、積極性を持って取り組みたいと思う。
・今日は楽しい一日をありがとうございました。
・皆、集中して話を聞いて頑張っていたと思います。イスの座り方の練習の際、みんな楽しそうにしていて良かったなと思いました。
・今日の講座は試験だけでなく、今や将来に大きく関わってくる大切なことをたくさん学ぶことができた。

そして、多くの生徒が「お忙しい中、講座を開いて下さり本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べていました。他者への配慮ができるというのは、心が満たされているからなのだろうなと感じたことでした。町中でも、おじいさんと少年が立ち話をしていたり、松葉杖の中村に「荷物持ちましょうか」と何人もの方が声がけして下さったりしたそうです。この地域の持つ、人への温かさやつながりが子供たちを心豊かに育てているのだろうと感じました。

高知県の教育の基本理念に「学ぶ意欲にあふれ、心豊かでたくましく夢に向かって羽ばたく子どもたち」というのがありますが、まさにそうだと実感できた、心に残る講座でした。

第1013回 「3年ぶりの大学での対面講義」

7月9日

先日、私にとって 3年ぶりに 大学での対面講義が再開されました。
高知工科大学のインターンシップ前のビジネスマナー講座で、ソーシャルディスタンスをとりつつリアル・コミュニケーションが帰ってきたのです。

写真のこの回は 複数の学群が合同での講義だったため、講堂で行われました。

調べてみると2006年(平成18年)にこの講堂で初めて、400名でのペアワークを含む講義をしていました。その後は階段教室での複数回講義に分かれていったなぁとか、工科大の経営委員を8年拝命したことで、卒業式や入学式でこの壇上に上がったなぁとか、懐かしい思いになりました。

今回はコロナ禍ということで従来の内容にオンライン・インターンシップの解説も入れ、ペアになっての名刺交換と自己紹介も入れたため、時間的ゆとりがまったくなくて、常に全力疾走して時間内に収めるハードな内容になってしまいました。(笑)しかし事務局スタッフの方がスムーズにペア決めができるよう座席配置にも配慮してくださり、すんなりペア決めもできてホッとしました。

実はこの3年、コロナ禍で対面コミュニケーションができなくなったため、学生のコミュニケーション力の低下をとても心配していました。人と向き合うという基本が長いことできなかったので、1分間の自己紹介というハードルをうまく越えられるだろうかと気になっていました。

最後のペアワークの時間、みんながにぎやかに話し始めました。学生の皆さんの顔が高揚し、積極的に相手と関わろう!という熱気が伝わり、壇上で「ああ、これこそがコミュニケーションだ」と感激。最後はエアー・ハイタッチで盛り上がって終了しました。

「向き合ったときに目を見られない人は目でなくマスクを見ることでもOKということでホッとした」という感想もいくつか頂けました。コミュニケーション以外でも就職活動に対する悩みや、話し方や手書き文字の課題など、レポートの質問はいつも多岐にわたります。すべてにお返事を返して、今年度の講義は終了です。

最後に 私にとって大きかったことは、この講座内容を別教室で同時に講義してくれた講師仲間の中谷優子さんが岡山から駆けつけてくれたことでした。
いつも明るく意欲的な彼女と3年ぶりに会え、素晴らしい仲間と一緒に仕事ができた喜び。やっぱり、対面(リアル)って最高!(笑)

学生の皆さん、「失敗はない。フィードバックがあるだけ」です。
インターンシップで、大いにチャレンジしてくださいね!