第1186回 「融通」
11月21日 中村 覚
「融通」― 状況に応じて臨機応変に対応できること。
今回はそんな融通についてのお話です。
山あいをドライブしている時です。道沿いに川が流れ、空は青くあと少し南に走ればやがて海が広がります。初めての場所ではありませんが、何度通っても気持ちが晴れ晴れします。途中、ガソリンスタンドがあり80代ぐらいの年配の店主さん1人でやっていて、これまでにも1,2回寄ったことがあります。
給油の機械の前で車を止めると、店の中でテレビを見ていた店主さんがゆっくりと出てきて、車と給油の機械の間に立ちます。セルフではなく昔ながらですので、私も車内から給油口の蓋を開けます。するとガガガッと、たちまち給油が始まる音が。
あれ? あ、そうか…。ハイオクかレギュラーか、そんなの聞くまでもない?そうです、もちろんレギュラーですし(笑) でも何も聞かれないってことは、このまま満タンに? 無言のまま給油してもらうのは初めてです。もしかして、知らない内に馴染みの客に格上げしてくれたのかも(笑)いやいや多分、この辺りは農家の方が多いので、皆さん給油の際は常に満タンなのでしょうか。(だから、あんたも満タンだろ? 融通を利かせて、聞くまでもないでしょ)と(笑)
辺りはのどかな風景。お互い気持ちも大らかになるというもの。いやいや、 そうでもありません。窓から顔を出し大きめの声で「3000円分でお願いします」。あ、そうなの? はいはい。言葉には出さずともちょっとした顔のほころびが、そう言っているようでした。
次は近所のスタンドでの話です。
タイヤ交換の時期。これまでもこの店でやってもらっているので、話はスムーズ。でもこの時は事情があって、なるべく早くお願いしたくて、明日よりも できれば本日中に。ところがいつもそうなのですが、私の車に合うタイヤは在庫がなく取り寄せになるのです。それをわかった上で、勝手な急ぎのお願いです。
「わかりました。もし業者に在庫があれば、今日の16時までに当店にタイヤが届くので 本日中に交換可能です。でも今は先方と連絡がつかないので、結果がどうあれ、後から電話連絡しますね」と。私としてもそれは大助かり。そして当然「お客さんの電話番号をお願いします」
「…」
「お電話番号を~」
「いや、それが…」
この時、急に番号の下4桁が出てこなくなりました。
あらためて聞かれると、途端に怪しくなったのです(笑)当てずっぽうで言おうかとも思ったのですが、私は期待する連絡を待つ身。番号が違っていれば、元も子もありません。どうしようと慌てていると、店員さんが「そしたら、一旦、うちの店にお客さんから電話してもらえますか? 今から番号言います」
「!」
なるほど、その手がありましたか!逆転の発想ね(笑)私から電話すればお店の電話にこちらの番号が表示され、即 解決!
今年ワースト1の融通の利かない自分を実感しました…。
最後は融通を利かせてもらった話です。
ある日の事、伯父から電話があり「わしの代わりにちょっと病院に電話をしてくれないか」と。80代の伯父は今月手術を受けるらしいのですが、手術日を忘れてしまったのです。それを電話して確かめたいのですが、伯父からすれば、電話がクセ者。一昔前なら人が対応していたのが今はガイダンスが流れ、どこの科を受診したいのか、番号でまず意思表示しなければ繋がりません。この部分でつまずいたようです。手術日の確認という単純なことですが、今は個人情報云々があるので、無理だろうと思いましたが一旦 引き受けました。
受診している科に電話が繋がった後、手術日の確認をしたいと言って伯父の名前を言います。すると生年月日を聞かれ、わかりません。実はこれこれこういうことで伯父の代わりに親戚の自分が電話をしている旨を伝えます。すると「ふむ、ふむ」といった感じで「少々、お待ちください」。どうも上役に掛け合ってくれているような。「お待たせしました。申し訳ありませんが個人情報の関係で申し上げることはできません」 やっぱり、ですよねぇ(笑)
「手術に関する書類をお渡ししていますので、それで確認してもらえれば~」それもそうですよねぇ。でも伯父はそんなことは言ってなかったので、多分書類はどこにいったのかわからないはず。多分なくしているので、もう一度だけお願いすると「少々お待ちください」と。
「わかりました。それでは、こちらからご本人に電話をして直接伝えます」
ありがたい!伯父は私からの結果を聞くため、家の電話の前にずっといるはず。「すみませんが、今から電話をしてもらえると助かります!」
「わかりました」
まさか病院の看護師さんが、担当業務以外でこのように融通を利かせてくれるとは思ってもいなかったです。
自分自身「融通が利かない」ということは言われたくないですが、いざ融通を利かせるとなるとなかなか難しい。だからこそ、融通の利いた人の対応は本当にありがたいです。

