第1196回「乾きと豪雨のあいだで─高知の気候のゆらぎ」

2月7日

水が消えたダムの底に、忘れられていたかつての集落の石垣や道筋が姿を現します。普段は静かに水の下で眠っているはずの景色が、乾ききった空気の中で まるで時間を巻き戻すように露わになっていきます。渇水の深刻さを物語る光景として報道でも繰り返し取り上げられ、高知市は渇水対策本部を立ち上げました。

これは2026年現在の話ではなく、1998年9月の高知です。
この静かな“乾きの風景”のすぐあとに、想像を超える豪雨が街を襲うことになります。
1998年(平成10年)の高知豪雨は、その“変わり目”がどれほど急であるかを私たちに示した出来事でした。

1998年9月23日〜25日にかけて、停滞した秋雨前線に向かって発達した雨雲が次々と流れ込み、高知市・南国市などで記録的な豪雨となりました。高知市東部を中心に河川の越流や排水ポンプが間に合わない大雨で、広範囲に大浸水が発生。特に高須・大津地区では内水氾濫が深刻で、最大水深が2mを超えた地域もありました。水圧で蓋が飛んだマンホールに落ちて数人の方が亡くなり、マンホールの蓋の構造を見直すきっかけとなりました。死者は7名、高知市の資料では、床上・床下浸水は19,749世帯とされています。

実はその9月前半、高知市では渇水対策協議会が立ち上がるほどの少雨が続いていました。
その直後に、観測史上1位の豪雨が襲ったことが、今も語り継がれる理由のひとつです。

高知気象台によると高知市では、
• 1時間雨量:129.5mm(観測史上1位)
• 24時間雨量:861.0mm

2日間の降水量は、9月の平年値の2.5〜3倍に達しました。
では、なぜ渇水対策協議会ができるほどの少雨のあと、わずか数週間でこの豪雨が起きたのでしょうか。

高知だけではなく、日本では「雨の降らない日が増え、同時に極端な大雨も増えている」と言われています。
これは皆さんも、なんとなく感じていることではないでしょうか。

気象庁の長期観測によると、
• 極端な大雨の発生頻度は増加
• 雨の降らない日数も増加
という、いわば「両極端化」が進んでいます。
つまり、長い乾燥 → 突然の豪雨というパターンが起こりやすい気候になっているのです。「雨の降らない期間の増加」+「極端な大雨の増加」 が同時に進行しているわけです。

そのため、渇水 → 豪雨という“振れ幅の大きい気象”は、以前より起こりやすくなっていると考えられています。渇水は主に「長期間の少雨」で起こり、豪雨は「前線・台風・湿った空気の集中」で起こります。両者は原因が異なるため、渇水が続いていても、条件が整えば一気に豪雨が来ることがあります。そのため、連続しても不思議ではないようです。

また、渇水の長い乾きの時間は、大地が水を受け止める力を弱め、豪雨が来たときの被害をむしろ大きくします。

幸い今は冬の静けさの中で、豪雨の心配はほとんどありません。
けれど、季節が巡れば、また空は違う表情を見せます。
だからこそ静かな季節のうちに、心の準備だけは忘れずにいたいものです。
乾きと豪雨のあいだで揺れる時代を、しなやかに生きていくために。