第1165回「秘すれば花」
6月28日
私は研修講師になって以来、ずっと研修の最後にレポートを書いてもらうことにこだわっています。
大学でも通常は電子媒体で出してもらうのでしょうが、わざわざ手書きしてもらいます。書く時間は人によって違いますし時間もかかりますが、1枚のレポートから実に多くのものが見えてくるのです。
今週も2つの大学で講義して、240枚くらいのレポートを読みました。今は「質問のある人は手を上げて」と言っても、まず手は上がりません。では聞きたいことはないかというと、レポートには質問を書いてくるのです。それらを読むと、質問はなくても受講者がどう感じたのか、同じことを聞いても自分は何を学びとしたのかということがとてもよくわかります。あと、手書き文字の大小、筆圧から性格なども伺えるのですが、これは電子レポートではわからないことです。
またマナーの意味合いから、レポートを相手に渡すときの動作確認をします。相手の前に立って、笑顔で目を合わせる。胸の高さで相手に読める向きに持ち、何か一言言葉をかけて両手で渡す。ちょっとしたことですが、その些細な動作から体調や機嫌、研修に対する感情など、様々な情報が伝わります。こういう、言葉以外の非言語コミュニケーション(表情、態度、目線、動作、話し方など)の情報って意外と大きいのです。
先日はちょっと面白くて、連続講座の2回目で専門的な質問の中に「年齢は何歳ですか」「生年月日はいつですか」という質問が重なりました。そもそもこんなこと、今まで聞かれたことありません(笑)講義の最初の「ご質問へのお答え」コーナーで、こう話しました。
「これから皆さんは、相手とのコミュニケーションにおいて聞きたいことを何でも聞くのではなく、相手に配慮した質問を選ぶということも学ばなければいけないでしょう。
特に女性に対して、一般的に年齢を聞くのは失礼とされています。私の生年と年齢は『秘すれば花』という言葉に置き換えます(笑)すべてを見せず、秘密の部分をもっておく方がいいと思うので」と答えました。こういう気持ちの機微も、人生勉強になるのではないでしょうか。
「講義と関係ない質問には、あえて答えなくてもいいかな」と距離を置くこともできますが、どういったことを聞くべきか学生の皆さんに考えてもらう良い機会にもなると思うのです。結局、講義内容以外でも「好きな異性のタイプは?」といった質問まで、年齢以外は全部答えました。するとある学生が、その日のレポートに「最初の質問コーナーで意外にもラフな質問も多く、それにしっかり答えてくれたことに優しさを感じたと同時に驚きました。」と書いてくれたのです。質問を書いてくるのはコミュニケーションを積極的に取ろうとしていることの表れでもあると思っていたのですが、間違っていなかったようです。
私も40歳を過ぎて大学院の起業家コースに入学し、様々な講師の先生の講義を受講しました。直接講義と関係ない質問でもそれが人生勉強に繋がる質問もあり、それもまた学びたいことでもあった気がします。質問を寄せてくれる学生さんに、かつての自分を重ね合わせているのかもしれません。
そう考えると、レポートのご質問にどう答えていくのか、私の方が修行になっているのかもしれないな…と感じる今日この頃です。