第911回 「アマビエ」

7月12日        中村 覚

「コロナ 終息 妖怪に託す」という見出しで高知新聞(2020年4月7日)でも取り上げられた妖怪アマビエ。 テレビでなんとなく名前は聞いたことはありましたが、活字の紹介を交えて姿形をまじまじと見たのはこの新聞がきっかけでした。

時は江戸時代(1846年)、今の熊本県に毎晩海で光るものがあるので役人が見に行くと、こんな妙な物がいたというのです。「私は海中に住む“アマビエ”という者」と自分から名乗り、「今から6年間は豊作だが病もはやる。早々に私を写して人々に見せよ」と言って、海の中に消える。写真は江戸時代の新聞にあたる瓦版のもの。現在は京都大学附属図書館所蔵です。

絵の右側に書いてある文字は、江戸へこの一件を報告した際の写しだそうです。
今の感覚だと、こんなこと いちいち江戸へ報告するほどのことなの?と思いますが、当時は真剣だったのでしょう。でも、それはそうかもしれません。その時代、その時代が その時の最先端なわけですから。「当時はまだ科学も発展していなくて、医療も~」などと言うのは、後の世の人間の勝手な発言です。今の2020年のことだって、後の世の人からすれば「当時はまだスマホしかなく、何かと不便で仕方なかったでしょうよ」と言うように。(笑)

ところで、このアマビエ、色々な商品になっていますが、私が買ったのはこれです。

内容は瓦版のアマビエ(A4サイズ)と、水木しげるさんが描いたアマビエ(ミニサイズ)のクリアファイルが2枚、それからシールと小冊子(解説書)が付いて900円(税別)です。

冊子の解説によると、そもそも世間にアマビエがよく知られるようになったのは水木しげるさんが描いたのがきっかけだったそうです。そうかぁ 「妖怪」となれば やっぱり水木しげるさんなんですね。

アマビエの新聞記事から約2週間後です。コロナの感染拡大を受けて「病の神よ 鎮まれ」の見出しで北海道のアイヌ民族の有志の方々が病気の神(パヨカカムイ)に対して「何とか鎮まりください。お互いに生きていきましょう」と祈りを捧げる記事が新聞に掲載されました。

「共生の精神に基づき、病気の神を退治することを目的としなかった。」と書いてあるのを読んで コロナに限らず 物事全般に対する捉え方を、今一度考え直すようにと言われているような気がしました。

この記事から1ヶ月後、たまたまテレビ番組「情熱大陸」でアイヌの木彫家 貝澤 徹さんの放送を見ました。「アイヌの造形物には あまり リアルなものは作っちゃダメだと昔から言われている」との話があり、その後に「リアル過ぎると彫られたものが悪さをすると言う。」とナレーションが流れました。

これを聞いた時に 何となくわかるような わからないような・・・。でもこれは大事なことなんだろうなあ。 次に頭に浮かんだのは アマビエ(瓦版の絵)でした。 初めてあの絵を見た時の記憶が蘇ります。「なんで、こんな絵?」子供が描いたみたいな・・・。(笑)

でも、思います。もしあの絵がもっと上手にリアルに描いてあったら、こんなにも多くの今の人達が 各々の思いを込めて自分なりのアマビエを描くことにはならなかったのではないかと。基になるものの完成度が高いとそれで完結してしまうので。

そう考えると あの瓦版のアマビエ、現代に残るべくして残ったものなのでしょうか。