第706回 「ミスジャッジ」

7月22日             (中村 覚)

日頃の行いが良いのか悪いのか、神のみぞ知る? いえいえ 神様もお忙しいでしょうから、こういったことは自分でジャッジします。休日のイベント等で天候に恵まれたり、混雑時のショッピングモールで駐車場に事欠かなければ「ラッキー、日頃の行いが良いから」と冗談半分に自画自賛。こういった経験、皆さんもお持ちではないでしょうか。日々の善行の真偽はともかく(笑)。

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一週間ほど前です。その日は朝からパラパラ小雨が降り、気圧変動のせいと寝不足のおまけが重なり気分がすぐれず、蒸せる部屋にいるよりこんな時は外出に限ると思い、家を出ました。目的地もないまま、途中 オープンしたばかりのコンビニによって、淹れたての100円コーヒーで目を覚まそうと。自分でカップにコーヒーを入れなければならないので ひと手間ですが、缶コーヒーより断然こっちがおいしいと人が言うもんですから。

空のカップを持ってコーヒーの機械の前に並ぶのですが、店内にはもちろん他のお客さんもいます。 私が松葉杖で歩けば ざっと3人前ぐらいの幅を取るので「すみません」と言ってスペースをゆずってもらいつつの移動。と この時、ポテッと転んでしまいました。つまずいたんです。

転ぶ瞬間、側面の大きなガラス窓に右手をつくことができ、とっさに床についた左手もたいして痛くなく、腕から離れた松葉杖もそろりと落ちて、大きな衝撃音も立ちませんでした。 つまりソフトに転ぶことができたと内心、ホッとしたんです。 が、他の人から見れば、ふつうに「転倒」です。そばに居た見ず知らずのお客さん3人が驚いた様子で「大丈夫ですか?」とすぐに駆け付けてくれました。

「あぁ 大丈夫です、(よっこらせ、と立ち上がりながら)ご心配をおかけしました。」 他人のことはお構いなしで自分さえよければ良い、そんなニュースで溢れる昨今、人の親切を感じる一瞬です。 が、ありがたいなぁと思いつつ、やっぱりちょっと恥ずかしい。私に怪我もなく、たいしたことがないとわかると皆さんそれぞれの買い物に戻っていきました。

「あぁあ 痛くはなかったけど、やっぱり 人前で転びたくはないな」と思いつつ、カップにコーヒーを入れ終わり、袋に入れて店を出ようと思った時、見計らったように、横から「(コーヒーを)持っていきますよ」と。さっき駆け付けてくれたお客さんの一人が笑顔で横に立ってくれてます。「あぁ いえいえ、大丈夫ですので・・・」「そんなこと言わず、お手伝いさせて下さい」と笑顔のまま。こんな声がけをしてもらったのは初めてです。 デッカイ荷物なら「是非、お願いします」と頼みたいのですが、コーヒーを駐車場の車まで持って行くのは いつものことだし・・・。でもあまりに柔らかな雰囲気で言ってくれるのでお頼みすることに。

店を出ると、雨にぬれることもいとわず、ゆっくり私の歩みに合わせてくれ、「では、乗ったら(コーヒー)渡しますね」と私が乗り込むまで横で待ってくれていました。たしかに運転席に腰かけてから物(コーヒーに限らず)を渡してもらえると、体勢が安定しているのでとても助かります。今まで考えたこともなかったです。この方は人をサポートするお仕事に携わっているのかなと思いつつ、ただただ「ありがとうございました。」 私には それ以外なかったのです。

最初と変わらぬ笑顔のまま「お手伝いさせてもらって嬉しかったです。」と、向こうの方に停めてあったご自分の車に去って行きました。

こんな方と出会える確率はどのくらいなのか?
どう考えても自分とは不釣り合いな、親切で雰囲気の良い方でした。
多忙な神の採点ミスによる出会いに感謝です。