第1117回 「名建築!海のギャラリー」
7月28日
今年も土佐清水市でのビジネスのご縁を頂き、感謝しつつ竜串近辺を回りました。
こちらは「海のギャラリー」。郷土の洋画家・黒原和男氏による貝のコレクションを展示する、2階建ての小さなギャラリーです。
女性建築家の草分け的な林雅子(1928-2001)さんによる設計で、1967(昭和42)年に開館。しかし老朽化と経営難で2001年には廃館の危機に立たされます。
そんな時、林さんの名建築を残そうという運動が全国に広がり、2005年、日本財団の支援もあり修復されました。2003年に「日本におけるモダンムーブメントの建築100選」に選ばれ、2019年(平成31年)には、国の登録有形文化財に指定されました。鉄筋コンクリート折板構造で、このギャラリー自体が貝を表現しているようにも思えます。
当時38歳だった林さんは貝殻を一番美しく見せるにはどうしたらよいか考え、上から光が差し込む暗い海の中で貝を見るような設計にしたそうです。1階には窓もなく、斬新だったのではないでしょうか。トップライトから落ちる光が吹抜けのガラス展示部分を抜け、まるで海の中から海面を見上げた時のような幻想的な空間になっています。
2階中央の展示ケースは2枚のガラス張りで その間に貝を展示してあるため、普通は見られない貝の裏側も見ることができます。海に潜ったような気分になりました。
古い教会を思わせる大好きな場所。1階の階段下から2階を見上げると、差し込む光が天に導いているように見え 荘厳な気持ちになります。
構造は屋根のトップライト部分では、一切つながっていません。蒼い壁の仕切り板が目を引き、宇宙船の中のようにも見えますね。
柱などのデッドスペースが皆無で、本当に美しい建築です。静謐(せいひつ)という言葉がぴったりです。
中央の展示の貝をのぞいてみると、ガラスを通して1階の床が見えます。海中をのぞき込み、泳いでいるかのようです。
トップライトは光る海面。2階は浅い海中、1階は深海というイメージの明るさですね。
1階の床材は、地元の花崗岩を砕いたものを敷き詰めています。形はバラバラですが、色がモノトーン。海底らしい揺らぎさえ感じるような、巧みな作りです。
最後に。これ「テンシノツバサ」貝です。本当に、天使の翼みたいですよね!
自然の造形も素晴らしいけれど、人が作った建築もまた、心に響きます。
SATOUMIなどの華やかな水族館の近くであまり目立ちませんが、素晴らしい大人のギャラリーです。
ぜひ、ここで海を感じてみて頂きたいなと思います。