第1131回 「天を見あげて~関学の時計台」

11月2日

先週 関西学院大学を訪問したことを書きましたが、こちらにも有名な時計台があります。高知追手前高校もそうですが 時計台ってその場所のシンボル的な存在であり、ここは建築家ヴォーリズによるキャンパス構想の中心部と言えます。

1929 年(昭和4年)には、図書館として建てられました。当時は両サイドの三角屋根部分(両翼部)はなかったそうですが、1955年(昭和30年)に増築をしたとか。2009年(平成21年)には国の登録有形文化財になっています。

近くで見上げると、柱やポーチの美しいラインが本当に印象的です。

時計台から上は言わば3層構造で 凝った造りです。時計の上にはチャイムの賛美歌を流すスピーカーを設置、最上部のドーム屋根にはモザイクタイルが貼られています。

正面の壁の上部には、エンブレム(紋章)。スクールモットーである「MASTERY FOR SERVICE」が掲げられています。(キリスト教の精神に基づいて、自分の能力を高めて社会に貢献することを目指す意味)

盾形のエンブレムは1929年に当時のベーツ院長が制定しました。十字架で仕切られていて、当時の学部の象徴が描かれています。

右上は新月(中学部)、
左が聖書(神学部)、
左下はペンと松明(文学部)、
そして商業の神様マーキュリーの杖(高等商業学部)。
今も揺るぎない 礎なんですね。

実は1944 年(昭和19年)の戦時中には連合国軍の攻撃目標とならないよう外壁が黒く塗られ、正面の鉄製手摺と内部の金属は供出され、英字のエンブレムも撤去されてしまったそうです。現在のエンブレムは1949年(昭和24年)に設置されたものだとか。

今年は「大学博物館」となって10周年記念ということで、「天を見あげて 関西学院のヴォーリズ建築」という企画展を行っていました。では、扉を開けて入っていきましょう。

中に入ると瞬時に空気感が変わります。堂々たる奥の階段、右の立体的な壁の造り、
まるで絨毯のような床のタイル模様。天井のラインも優雅です。

こちらは、階段方向から見た入り口。光の陰影が、まるで映画のようです。

立派な石造りの階段は右と左で、手すりが非対称になっています。実はこの手すりの穴には、かつてアイアンワーク(金属製の装飾)が施されていました。

しかし戦時中の金属供出で失われたまま、不自然に空いた23個の穴が残されたのです。

今 写真のようにはめ込まれているのは、木製模型です。
2014年、創立125周年を機に時計台に大学博物館が開館し、一般の方や子どもたちも訪れるようになりました。今年10周年の企画展を機に、建築学部の准教授と2人の学生さんがこの装飾を木で13個制作し、竣工当時の意匠(デザイン)を立体的に表現したそうです。

確かに、特に2階のアイアンワークがあるなしでは、印象も安全性も大違いですね。
大学博物館では寄付金を募り、鋳造での復元をめざしているそうです。

展示の解説に「日常にあった美しいものもすべて飲み込んでいく戦争の恐ろしさを感じる」とありましたが、こうした平和への強い思いが、心に残りました。

天窓越しの光がやわらかです。では、右手の展示を見ていきましょう。

2階中央の装飾窓の内部。天井部のデザインが特に目を引きます。

昔の設計図や時計台の塔屋内部の写真、古い図書館の黄色い窓、昔の宣教師館を解体したときの手すりなど、興味深い物がたくさん並んでいました。

図書館正面外壁のエンブレムは、1942年(昭和17年)に敵性語の使用がはばかられる風潮の中、取り壊されました。その破片の一部を商経学部の学生が鳥取の実家に持ち帰り、1989年(平成元年)にご遺族が学院に寄贈なさったものが展示されていました。赤い部分は商業の神様 マーキュリーの杖の一部でしょう。

「天を見あげて」の企画展で、平和についても考えさせられる貴重な機会を頂いたように思えてなりません。ありがとうございました。