第1181回「やなせさんご兄弟に思いをはせて」
10月18日
先日、追手前高校の校友会の役員会がありました。夜の校舎は、1年ぶりです。
今年は創立147周年になり、150周年も視野に入ってきました。校友会の副会長も11名体制になり、私も末席に連なることに…
玄関をくぐってすぐの「卒業生 やなせたかしさんコーナー」には、ビックリしました!
「あんぱん」放送中の5月末に、タイムリーに設置されたようです。
晩年のやなせさんの肖像パネル、卒業写真を含む紹介パネルや、自筆の手紙・色紙、絵本「あんぱんまん」など盛り沢山でした。
穏やかに微笑むやなせさんと、本当に素晴らしかった朝ドラ「あんぱん」の北村匠海さんの姿が重なります。北村さんは抑制された演技で やなせさんの「穏やかな中にも芯の通った生き方」を表現され、実に名演でした。
昭和11年卒のやなせさんの卒業写真や、アンパンマンが体現する「逆転しない正義」、やなせイズムが伝わる「アンパンマンのマーチ」の歌詞…さらには、やなせさん制作の追手前のキャラクター「追手前【○○(オー)くん】誕生20周年」まで!うーん、粋だわ~(笑)
「あんぱん」にご出演の俳優さん8人のサインも飾ってありました。左上から右へ、
高橋文哉さん(辛島健太郎役)、中沢元紀さん(柳井千尋役)、松嶋菜々子さん(柳井登美子役)、瞳水ひまりさん(宇戸しん役)、
下の段は 鳴海唯さん(小松琴子役)、細田佳央太さん(原 豪役)、河合優美さん(朝田蘭子役)、原 菜乃華さん(朝田メイコ役)。たくさんの方がご来校くださったのですね。
中でも、私が心打たれたのはこのサインです。
柳井千尋役の中沢元紀さんのサイン。
「旧制高知城東中学校」「高知追手前高校」と併記してくださっています。これを見たとき、深く胸を打たれました。たかしに千尋が「この戦争さえなかったら…!」と、思いを吐露する名シーンが頭をよぎります。
そうなんです。弟の柳瀬千尋さんも、旧制高知城東中学校の卒業生なのです。演じる俳優として、実在した柳瀬千尋さんという人物を深く理解してこそ「旧制高知城東中学校」という校名を自然に書いて下さったのだなあと。もちろん「高知追手前高校」の名前も書いて下さる心配り。若いのに、人間力の高い俳優さんだと思いました。
柳瀬千尋さんの集合写真は、今も学校に残っています。
上段、右から3番目が千尋さんです。子どもの頃はアンパンマンのように丸い顔立ちだったのが、成長につれて面長になったとか。
柔道二段で文武両道、優秀で将来を嘱望された千尋さんは、高知城東中から京都帝大に進学しました。海軍特攻隊に志願し駆逐艦・呉竹に乗船。台湾とフィリピンの間に横たわるバシー海峡で敵の潜水艦の魚雷を受け、わずか22歳で花の命を散らしたのでした。
「やなせたかし おとうとものがたり」には、「珊瑚」という小編があります。やなせさんが 土佐の名物の珊瑚が今では土佐沖で取れず、フィリピンの沖 バシー海峡産が主だと知ると、慟哭の思いを綴ります。
バシー海峡
珊瑚の海
千尋は千尋の海に沈んだ
骨は珊瑚になったのか
(中略)
なぜぼくだけが生きのこり
なぜぼくだけがここにいる
千尋よ
君が珊瑚なら
土佐の名物土佐珊瑚
故郷の海へ帰ってこい
暗い学校の廊下。昭和6年に建てられた校舎は築94年、やなせさんや千尋さんも通った建物です。もしここに軍服を着た千尋さんが立っていても、何の不思議もない気がしました。
過ぎてしまえば、人生も夢と同じだ。どこまでが夢で、どこまでが現実なのかわかりにくい。(おとうとものがたり)
思いがけず、やなせさん・千尋さんご兄弟に 思いをはせることになった夜でした。