第820回 「ミステリアスな電話」

10月6日                 中村 覚

夜になり 家に帰ってくると、テーブルの上で携帯がチッカチッカ光っています。外出時にはもちろん持って行くのですが、この日に限って忘れていました。未登録の番号から午前中の間に着信履歴が8回と留守電メッセージが3件 。

未登録・・・しかも8回という執拗な回数に「?」
とりあえず留守電を聞きました。

1件目
「谷ヤン、木村ですぅ~。骨が折れたのぉ、1ヶ月ぐらいかかるそうなので、休みます。よろしくぅ・・・。」
俺は谷ヤンではない。

2件目
「谷ヤン、留守電、聞いてくれた? 骨が折れたのぅ 電話ください。」
止めろ、陽は落ちて外は闇。知らない人の骨折話を聞く時間じゃない。怖いって。

3件目
「ボソボソ、ブツッ ブツブツ・・・ブツッ、ガァァァ~(雑音)」
いよいよクライマックス?

声の主は50代~60代の女性のようで、どうも仕事仲間に電話をしているみたいです。相手の方とは人間関係も良好なのでしょう。「谷ヤン」ですから。

しかし まぁ「はああぁ~」気が重い。「電話、間違っていますよ」と連絡しようとは思うのですが、留守電が入ってから半日近くも経っているのです。これだけ時間が経過していれば、既に先方ともちゃんと連絡が取れているかもしれません。間の抜けたことになるんじゃないかなぁ。

外の暗い庭を見て 一息入れてから電話しました。

「あの 木村さんですか?」
「はいぃ。」
「午前中に何度か お電話頂きましたが、あのぉ 私は中村と言います。」
「?」「・・・」「え? あ・・・」
「すみません、もっと早く連絡すればよかったのですが、家に携帯を忘れて外出していたので~」
「あぁ、そうだったのね、ごめんなさいね~」

と話はスイスイ進み、木村さんもそれほど驚いた様子ではなかったので、やっぱり知人経由等で既に話はついていたのかもしれません。
とりあえず良かった。

電話の切り際、ちょっと何て言えばいいのか悩んだ末 出た言葉が~
「お大事に。」
「あら? 留守番電話 聞いてくれたの? やっ 恥ずかしいぃぃ(笑)」
そりゃ、聞くって。

ミステリアスな木村さんでした。

※名前は仮名です