第863回 「TOTAL ENGLISHのレコード盤」

8月9日

以前、私の中学校の英語の教科書「TOTAL ENGLISH」について、第829回のコラム「TOTAL ENGLISHとビンセント君」で取り上げました。思い入れのある教科書が数十年ぶりに手に入ったのが嬉しくて嬉しくて。その後、このコラムを読んで、「私もこの教科書でした。懐かしい!ありがとうございます」という嬉しいメールも頂きました。

もう、あんなに感動する再会はないだろうなあと思っていたら なんと、この教科書を音読したレコード盤が存在していたのです。

たまたま「TOTAL ENGLISH」のキーワードを検索していたら、なんと中学3年用の教科書のレコード盤がオークションに出されていて、驚きました。当時 私たちが学校で英語の音読を聴いたのは、懐かしいオープンリールのテープでした。そのカセット版も売り出されていたようですが、レコード版があったなんて初めて知りました。

たとえいくらでも欲しい!と思ったのですがなぜか競合者はなく(笑)、300円で落とせました。こんなラッキーなことがあるなんて!

レコードプレーヤーがないのでどうしようと思っていたら、頼れる友達が名乗りを上げてくれました。助かったぁ。

「学習レコードの取り扱い方」なる小さな冊子が付いていました。レコード学習の先駆けの時代だったのでしょうか。

「レコードは大変便利なものです。なによりもまず、レコードは『疲れを知らない』ということです。針先を戻してやれば、同じことを何回でも言ってくれます。『もう一度お願いします』と声を出してたのむ必要もありません。ついさっき習ったことでも、何ヶ月も前に習ったことでも、同じ調子でくり返してくれます。」

ホントにねえ。(笑)数十年前のものを同じように聴けるんですもん。

テキストも付いており、教科書の小さなコピーのような感じでした。

CDに録音したものを聴くと、低音でハッキリとした音声が流れてきました。一瞬にして、中学校の教室に戻ったような感覚。ああそうだ、この声。懐かしい、美しい発音の英語でした。

その後 検索していると、中1中2のレコードもオークションに出されていました。私が一番好きなのは中2の教科書だったので、すべてそろった時は感無量でした。片面15分なので、両面で30分。それぞれ1学年5枚のレコードがあるので、30×5=150分、2時間半も吹き込まれているのです。3学年分で、なんと7時間半!

もったいなくて、ゆっくりと時間をかけて楽しんでいきました。

今回興味を引かれたのは1970年代初めに、コンピューターが登場していたこと。
主人公Vincent(ビンセント)君は、コンピューター教育センターに入学。人類の歴史から、最先端の映像で学びます。今で言うVRって感じですね。
コンピューターの名前はHarry(ハリー)。ビンセントは 彼に「友達になろう」と言い、様々なことを学びます。

しかしたった1人で学び続ける環境にやがてビンセントは疑問を抱くようになり、「学校の方が友達と経験を共有できるから、もっと良い」と父親に言います。父も「同感だ。コンピューターはただの機械(マシーン)で、事実は与えても経験は与えてはくれない。ただの記憶するマシーンだ」と言います。その通りだと思うビンセントは、ハリーに別れを告げに行きます。

「ハリー、今日はさよならを言いに来たんだ」
「なぜ?僕は何か悪いことをした?」
「そうじゃない。君が教えてくれたのは、良いことばかりだ。でも、僕はすべての事実を知らなくてもいいんだ、君に聞けばわかるからね」

沈黙が流れ、ハリーの涙の落ちる音がしました。
「君は僕の最初の友達だった。君を失ったら、僕はどうしたらいい?」
「僕はただの記憶するマシーンだ。僕は人間になりたい」

これを読んだ中3の時はグッときて、ハリーが可哀想でたまりませんでした。私たちの世代にとってはアトムに象徴されるように、ロボットは友達だったからです。でもアメリカでは、コンピューターはただのマシーン。

ビンセントは彼に「ごめん、ハリー。でも僕たちはそれでも友達だよ。君は決して人間にはなれない。でも君は、人間の最高の友達になれるよ。また来るから。」と言い、ハリーも納得したのでした。

今のAIの時代に比べると、なんて人間らしいコンピューターなんでしょうか。もちろんこれはフィクションですが、その時代の価値観が強く表れているように思います。
でもやはり、中学3年生には難し過ぎた気もしますが。(笑)