第903回 「数」の話

5月17日              中村 覚

もう十数年前に石鎚山に登った時のことです。中腹辺りまで登った頃、腰を下ろしてゆっくり一休み。覚悟はしていましたが、松葉杖で山道を登るのは思っていた以上に疲れました。中腹に来るまでにも何度も小休止を取っていましたが、登れば登るほど だんだん休憩時間も長くなるというものです。

そんな時、行き交う登山客の中に4~5人の大学生(?)のグループが登ってきました。見るとその中の1人がちょっと大きめの透明のビニール袋にタバコの吸い殻を拾いながら歩いてくるのです。自分よりも年下なのに「えらいなぁ」と思いました。

ビックリしたのは ビニール袋の中は、半分以上吸い殻で膨れていたことです。さすがにそれを見ると、「山」に対してどこまで登れるのかということしか関心がなかった私でも 色々考えさせられました。

もしあの時、ビニール袋に吸い殻が4~5本しか入っていなければ、その様子は目に映っても そのままスル―して今となっては覚えていなかったかもしれません。それだけ吸い殻の量、数にはインパクトがありました。

そう言えば、「開運! なんでも鑑定団」でお馴染みのおもちゃコレクターの北原照久さんの著書「『おまけ』の博物誌」を読んで、今でも覚えている内容があります。北原さんといえば昔の貴重なおもちゃを良い状態でたくさんお持ちだというイメージではないでしょうか。

2003年に出版された本で書かれている内容はそれ以前ですから、今から20年ぐらい前でしょう。骨董市などに掘り出し物を求めて出かけた時、いつも目ぼしいものに出会えるわけではありません。でも不発に終わった時でも、そのまま手ぶらで帰るのはもったいない! そう考えた北原さんは当時まだ誰も関心を持っていなかった(戦前などの)古い少年少女誌や雑誌の付録などを買って帰ったそうです。

こういったことを繰り返す内にだんだんと数も増えてきて、50個、100個になってくるとジャンルや時代別に分けることができるようになり、立派なコレクションになったんだよ!と。

最初から北原さんが本腰入れてコレクションなさっている物とは別に、こういった「手ぶらで帰るのはもったいない!」がきっかけの買い物が、数が集まるとコレクションになる。この話は物事の可能性を示唆してくれているようで嬉しくなります。

「数を頼みに」とか「質より量」と言われるように、やっぱり数のインパクトたるや一目瞭然、単純明快。強烈です!

とは言え新型コロナ感染者の数だけは、もう増えて欲しくないものですが。