第1092回 「風情のある善通寺の傘屋さん」

2月1日

香川県善通寺市は 弘法大師空海の生誕地でもあり、第75番札所善通寺の門前町として栄えてきました。静かで歴史的な街には国立病院付属の大きな看護学校があり、かれこれ20年近く通わせて頂いています。

このお店、「かさ」という古い大きな看板が通るたびに気になっていました。いかにも情緒のある店内に、入ってみたいなあと前々から思っていたのです。近年こうした懐かしい風景のお店がどんどん無くなっていくため、昨年末に行った際、思い切ってお店を訪ねてみました。

「ごめんください」とガラッと引き戸を開けると、昔風の上がりかまちがあり、いかにも懐かしいたたずまいです。もう、ここだけで小津映画のワンシーンになってしまいそう…。

いいなあ、と思ったのはこの傘の専用戸棚。傘を美しく見せ、とても大切に飾ってある感じですよね。昔は傘って高価で、大事に扱われていたんだなとしみじみ思いました。お店のお母さんが出てこられたので、色々とお話を伺いました。

この通りも、昭和30年頃までは鍛冶屋など職人の町で栄えていたそうです。こちらの「宮脇商店」さんは明治34年に創業、はじめは和傘と提灯の制作販売をなさっていたそうです。「昭和30年代までは和傘を作っていたけど、洋傘に替わってきて、洋傘も売るようになりましたね」

でも昭和30年代後半には洋品店やみやげ物屋でも傘を売るようになり、傘の専門店ではやっていけなくなったそうです。そのため、ふすまの仕事も先代のお父様が始められたとか。

お店のお母さんが本当に朗らかで素敵な方でした。残念ながら和傘は、もう置いていないそうです。色々とお話を伺いつつ傘を見せて頂くと「修理はできませんけど…」とすまなそうにおっしゃいます。恐る恐るお値段を伺うと、どれも2100円。喜んで1本購入させて頂きました。これもご縁です。

「戦後は社会の変化が早くて、時代のペースについていくのが大変でしたね。今は傘はほとんどデパートやスーパーで買うようになったので、あまり売れないんです」その代わりに提灯を作る職人がいなくなったので、現在はお祭りの時期の前はお忙しいとか。

大きな提灯を見せて頂きました。亡くなった先代がずっと作っていらしたそうですが、今では作ってもらった提灯に、娘さんが字を書いて仕上げているそうです。

明治からずっとこの町で傘、提灯と共にあるお店の物語を ほんの少しだけ見せて頂きました。まるで古い日本映画を1本見終わったように、穏やかで心豊かな時間でした。