第1202回「伝統の灯をつなぐ──井上閣下を偲んで」

3月21日

3月8日、追手前高校 校友会の大きな柱であり、私たち後輩から「閣下」と親しまれた井上博史(ひろし)先輩が、静かに旅立たれました。94歳でした。

井上閣下は追手前の校舎が建てられた昭和6年のお生まれで、旧制中学校の「高知城東中学校」と新制追手前高校の端境期に在校なさり、昭和25年にご卒業。旧制中学校の最後の学年でいらしたそうです。その後海外やコンサルタントとしてご活躍。長く校友会副会長として尽力なさって、追手前の歩みをそのまま背負っていらっしゃるような方でした。

春には新入生に向けて「追手前学」として、追手前高校の沿革と先人について語るお仕事を長年なさって来られました。昔は「追手前学」なんてなかったので、ずっと拝聴したい!と願っていたのが2年前に夢が叶い、とても嬉しかったことを思い出します。

閣下のお声はマイクを通して朗々と響き渡り、とうてい90歳過ぎという年齢を感じられず、その迫力に圧倒されたものでした。「昔は選挙の応援演説もしたし、海外での仕事もしましたからね」「今でも、中学校の時に学んだ李白の論語を毎日暗唱するんですよ」と伺い、根底に流れる教養と気概に、あらためて胸を打たれました。

昨年の5月には「そろそろ役目をバトンタッチをしたい」というご意向を受け、私も参加させて頂いて「閣下とジェーンさんの話 147年間の軌跡」を行いました。

空襲で焼け野原になった中、高知城と追手前の校舎がポツンとたたずんでいる写真や、閣下が体験なさった空襲の情景のお話は、生徒さんにも衝撃的だったようです。そして軍国主義から民主主義への転換、教育制度の変化、男女共学化など…。私自身も、語り継ぐべき歴史の重さをあらためて感じた時間でした。

創立147年という、長い学校の「伝統」について。
閣下は静かに、しかし力強くおっしゃいました。

「古いということに固執することは伝統ではない。
新しい時代に向かって、いかに社会や国のために尽くす人々をどれだけ輩出するかが、生きる伝統だ」

私も心打たれ、深く胸に刻んだものでした。

講話が終わった後、校友会室で「後は、ノリちゃんに任せた。頼んだよ」と笑顔でおっしゃったのが忘れられません。私はこうして、大切なお役目を引き継がせていただくことになりました。

昨年の秋頃、体調を崩され入院なさったらしいと伺い心配しておりましたが、残念なことに今月、静かに生涯の灯が消えてしまわれたのです。

ご葬儀には、歴代の校長先生、歴代の事務長、歴代の校友会担当の先生方などがお集まりになり、「高知追手前高校 校友会」の立派な花輪を拝見し、胸が詰まりました。本当に人徳がおありで慕われていらっしゃたのだなあとつくづく感じました。

あのときの笑顔と「頼んだよ」という一言は、今も私の胸に深く残っています。
その言葉は今も私の背中をそっと押し続けており、大先輩の気概を思い出しつつ、この課題を大切に歩んでいこうと思います。

井上閣下、本当に長いことありがとうございました。

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