第1203回「野村長平」
3月28日 中村 覚
NHKで「ダークサイドミステリー」という未解決事件や歴史の闇などを扱う番組があります。再現VTRや資料を交えつつ、スタジオに専門家を招き科学的に検証もしていきます。毎回楽しみで特に面白いと思ったものは残しています。
4年程前の分を先日、久しぶりに見ていました。もう4~5回は見たはずなのに、まるで新鮮! 面白い! 初めて見るみたい。内容は「漂流」についてです。伊豆諸島の南部にある火山島の鳥島(とりしま)を舞台に江戸時代 そこに漂着した人たちの壮絶なドラマが展開されます。
鳥島へ何年に漂着したのか、漂流者の数や滞在期間まで江戸時代の資料が残っていることに驚きます。本土に戻れたときに役所で取り調べがあり、その時の記録なのです。ですから同じように鳥島へ漂流しても生還できなかった人たちの記録は残りません。現存する資料は氷山の一角ではないかと。
島への滞在期間が最長の19年という遠州(静岡県)の人達を主軸に、番組は進んでいきます。鳥島は火山島ですので、草木がほとんどありません。飲料水は桶にためた雨水か、岩場にたまった水。極端に限られた食べ物では栄養のバランスも崩れます。海岸に流れ着く船の破片から船釘を抜き取り、それを石で潰して曲げ、針にして魚を捕るなど、生き抜くための工夫は重ねますが、若干の食の確保はできたとしても、
「これから自分達はどうなるのか? いつ故郷に帰れるのか? 助けは来るのか?」
こういった次から次に押し寄せてくる不安の波は人間の精神を蝕みます。
漂着した当初は12人でしたが、10年後には6人に減ります。皆を励ましていたリーダー格の人も亡くなり、15年後には3人に。その後、新たな漂流者が現れ、彼らが乗ってきた小舟を修理して皆で本土に帰還。島での滞在期間は19年という途方もない時間が流れていました。
番組では、鳥島について違う角度からのアプローチも。
例えば、有名なジョン万次郎もこの鳥島に漂着しています。滞在期間は5ヵ月。これは運良くアメリカの捕鯨船に発見されたためです。
そしてもう一つ。
実はこの鳥島はアホウドリの世界最大の繁殖地。漂流者たちは、まるで人間を恐れないアホウドリを次々に捕獲して大事な食糧源とします。ところが、アホウドリの肉ばかりを食べて栄養が偏り体調を崩す。このことに気が付いた漂流者、「野村長平」という人物を紹介していました。この人の銅像が静止画で10秒ほど流れ、その間 テロップとナレーションで簡潔な説明があり終了。番組は次の話題へと移っていきます。あっという間の紹介でした。
「野村長平」と言われてもわかりませんが、画面に映った銅像には見覚えがありました。以前、どっかで見たことがあるような…。もしやと思いスマホで調べると、わりと近い! 早速、写真を撮りに行ってきました。
テレビで紹介された像の角度もこんな感じ。
そうなんです。高知県の人だったのです。番組ではそんなことまったく触れなかったのでわかりませんでしたが、像だけは覚えていたのでセーフ!
野村長平さんは香南市香我美町岸本の出身。天明5年(1785年)に船で米を奈半利浦へ運んだ帰りに嵐にあい、鳥島へ漂着。当初は本人を含む仲間4人でしたが、生き残ったのは彼だけ。その後、島に新たな漂着者が現れ、その人たちと一緒に船を作り、13年ぶりに生還を果たします。地元では「無人島長平」として親しまれているようです。
像とお墓と碑と説明書きの看板が並んでいます。
ところで、私よりも上の世代の方であれば「野村長平」と聞けば、知ってる方も多いのではないでしょうか。実は吉村昭の小説「漂流」の主人公が野村長平です。(後で知りました)この本が刊行されたのは1976年(昭和51年)。
その後、1981年(昭和56年)に北大路欣也主演で映画化されています。
ですから 有名だと思います(笑)
記憶はよみがえるもので、10代の時、まだレンタルビデオの時代に一度だけ
この映画を見たことを思い出します。その時は原作や主演が誰かなど全く関係なく、ただちょっと見てみようと。覚えていることといえば、人間を全く警戒しない無抵抗なアホウドリを食用のためとはいえ、棒か石で次から次に殴打するシーンです。ショッキングでした。もちろん、もっと大事なシーンはいくらでもあるはずなのに…。
ちょっとした懐かしさと、野村長平さんのことだとわかった今、もう一度この映画を見たいのですが、時代でしょうか? DVD化されていません。
ですので、今 文庫本を読んでいる最中です。
今後、誰かと漂流に関する話になったら、(なかなかならないと思いますが)その昔土佐には「ジョン万次郎」と「野村長平」がいたんだよと、ちょっと自慢気に言ってみたいのです。




