第1157回 「小津高校の校舎建築探訪①」
5月5日
先週 建築史家の川島智生先生が、高知県の昭和初期の校舎建築についての調査で来高なさっていました。校舎図面の確認に、小津高・土佐女子高・追手前高の3校をご一緒に回らせて頂きました。前回、追手前での嬉しい偶然について書きましたが、今回は小津高校です。
正式名称は、高知県立高知小津高等学校。小津と言えば1999年(平成11年)に建築された、この新校舎が頭に浮かぶ方は多いと思います。
小津高校は1873年(明治6年)に開校した、高知県で最も古い歴史を持つ高校です。旧名・海南中学校と呼ばれ多くの軍人や著名人を輩出し、2023年(令和5年)には創立150周年を迎えました。
最古の象徴が校舎西側に現存する、開成門(県指定有形文化財)です。1866年(慶応2年) 土佐藩が建てた開成館(技術教育機関)の表門で 3度の移築を経て、今も歴史を伝えています。
これだけでも、物語が綴れそうですが…今回注目したいのはこちらです。
昭和7年(1932年)に建築された、ネオゴシック様式の鉄筋コンクリート3階建ての旧校舎の写真。
当時の高知県庁は東京市役所学校建築科の狩野宗平氏を招聘し、昭和6年の城東中学校(現・追手前高)に続いて海南中学校の校舎を建築しました。
ゴシック建築は12世紀からヨーロッパで広まった建築様式で、一言で表すなら「天に向かって伸びる壮麗なデザイン」。より高くそびえ、光の注ぐ尖頭(鋭くとがった)アーチ窓を特色とするもので、19世紀にそれを復興させたのがネオゴシック様式のようです。確かに建て替え前、小津と言えばこのアーチ窓がとても素敵な校舎でした。
中央が昭和7年建築の旧校舎の一部を、そのまま残している保存棟です。かなり印象的なデザインですよね。ネオゴシック調の保存棟を中心に、両側に新校舎の高層建物を配置しています。
門柱の三角屋根のような形も一風変わっていて、昭和初期の重厚感があります。
玄関前の車寄せがあるのは追手前と一緒ですが、小津は開口部が直線ではなくこのようなアーチになっています。「正面玄関はロマネスク風大アーチである」「2本のピナクル(尖塔)が大変美しく正面を引きしめている」と学校の資料にも書かれていました。
アップで見ると、三角屋根のようなモチーフがあちこちに使われているのがわかります。窓枠も、古いものを残していますね。
少し斜めから見ると、窓の縦長のデザインの美しさがより引き立っています。保存建物の尖塔模様の壁の装飾は両側に続く新校舎にも取り入れられ、新旧デザインの融合を図ったそうです。
車寄せの天井が階段状の折り上げ天井なのは、格式を感じます。中に進んで行くと…
玄関部分です。ガラスのドア装飾なども、前年に建築された追手前のデザインとほぼ同じです。
現在は左右の壁がくりぬかれ、生徒入り口に続いています。
保存された棟中央の階段部分は人造大理石の手すりが重厚感があり、趣深いです。「これはコンクリートに石の粒を混ぜて磨いている、研ぎ出し仕上げと呼ばれる技法です」と川島先生が教えてくださいました。
そのため、優美な曲線から直線へ変わるこのような手すりが自在に作れたのでしょう。
踊り場の窓枠もレトロなもので、外側のバルコニーの金属手すりともよく似合っています。
ネットで検索したのですが、こんなに素晴らしい校舎建築なのに、ほとんど情報が載っていません。卒業生でもない私が僭越ですが、少しでも小津高校の建築についてお伝えできればと書かせて頂きました。ですが、ご紹介したい写真が多すぎて、1回では収まりきりません。
学校からの許可も頂きましたので、また次週 小津高校の建築についてお伝えいたしますね。